勝手にアラカルトレヴュー

【読書】と【映画】のブログ

入門・裏アメリカ史。ハワード・ジン『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史 下 1901---2006』

アメリカの国際政治学ハワード・ジンが1980年に発表した『民衆のアメリカ史』を、歴史読み物作家レベッカ・ステフォフが、ヤングアダルト向けに編集したもので、これはその下巻である。

上巻では、コロンブスのインディアン殺戮から、19世紀までの格差と差別の歴史が書かれていたが、この巻では、20世紀前夜から、オバマ前までの、戦争に次ぐ戦争の歴史と、平和と平等を望む市民たちの闘争の歴史が書かれている。

アメリカ発の情報にどっぷり使っている私たち日本人が、日頃思い描いてるアメリカは、自由、平等の民主国家。しかし、ここで描かれているアメリカは、それとはおよそかけ離れた、差別と貧困と戦争好きの国である。

ハワード・ジンの原作では、600ページ以上もある分厚い本が三冊に及ぶが、これなら読みやすく、本当のアメリカ史を、ざっくり理解するにはちょうど良い、オススメの本である。


ここにちょっと、下巻のエッセンスを拾ってみよう。

19世紀末に勝利したアメリカ・スペイン戦争参戦の原因は、キューバ独立のためではなく、砂糖の値段のためで、アメリカの資本家の利権を守るためだったのだとか。

1000万人が戦場で命を落とし、2000万人以上が戦後の飢えや病気で命をおとす悲惨な戦争となった第一次世界大戦だが、当時不況だったアメリカは、そのおかげで、イギリスに大量の武器を売り込み、経済的に潤うことができたのだとか。

しかも、数千ケースもの爆薬輸送中のルシタニア号がドイツに攻撃されると、一般人を輸送していたと嘘ぶき、アメリカ商船が交戦地帯を航行する権利を主張して宣戦布告するに至ったのだとか。

その頃既に20億ドル相当の物資を連合国軍に売り上げており、アメリカの繁栄がそこにかかっていたようだが、ウィルソンは、『あらゆる戦いを終わらせ、世界を民主主義にとって安全なものにするため』の戦いと、心にもないことを訴えたのだとか。

また、アドルフヒトラー率いるドイツ軍を攻撃する目的で行われた第二次世界大戦は、アメリカで最も人気のある戦争だったそうだが、実のところは、人道的な大義のためではなく、アメリカの友好国以外が、他国を支配し、権力を握ることを阻止するための戦いだったのだとか。

そのため、ホロコーストと呼ばれるユダヤ人抹殺にも、ローズベルトは感心を示さなかったし、アメリカ軍隊の中ですら、黒人と白人は隔離され、血液銀行ですら、血液が分離されて保存されていたのだとか。
それこそ、差別がまかり通り、人道なんてあったものではなかったようだ。

その後も、国が潤うためには戦争が必要と、ベトナム戦争湾岸戦争イラク戦争・・・と、戦争を続けてきたアメリカ。
本当は、ごく一部の権力者を潤わせるだけなのに、産業を支えてきた労働者や、貧しい人々の生活を救うことより、軍事費に巨額の予算をかけてきたアメリカ国家。
私たちが知らなかったアメリカの裏の顔があぶり出され、実に興味深い話ばかりである。

勿論、その一方で、人種や性別、宗教等の差別に対して、命をかけて戦った勇敢な活動家たちもいたし、反戦デモなどの運動を続けてきた市民もたくさんいた。

その小さな声と力の積み重ねが、少しずつではあるが、社会を変えてきているのだとも書かれている。

本書でジンは、これまで大半の歴史書で無視されてきた有色人種や女性、労働者や貧困層の立場から、体制に抵抗する人々の姿を生き生きと描き出し、さらには、誰もが自分らしく生きていける平和な未来を、人々が自ら切り開いていくことの大切さを訴えている。

知らず知らず、アメリカの影響下にある日本人の私たちが、刷り込まれた偏見に気付き、真実に向き合う目を覚ますためにも、是非とも一度は読むべき歴史書だと思う。