勝手にアラカルトレヴュー

【読書】と【映画】のブログ

高橋昌一郎『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』by 弟

最近、言語哲学から計算哲学へ、というようなことを考えていた。言語哲学が言語によって知り得ることと知り得ないことを峻別し、言語によって知り得ないことは沈黙する哲学だとすると、計算哲学は計算によって知り得ることと知り得ないことを峻別し、知り得ないことは沈黙する哲学。

考え始めたきっかけは、チャイティンが物理の法則だけでは化学や生物学の現象にくらべて情報が少なすぎるので化学や生物学の説明ができないと証明した、という話を読んだから。

その話が、AIの時代の数学はどうなるんだろう、という話と繋がって計算哲学という言葉を思い付いた。

この計算哲学をより具体的にしたくて本書を読んだ。計算哲学の良い実例はゲーデル不完全性定理だとなんとなく思っていたからだ。

本書の内容は哲学よりであまり得るところがなかったが、最近考えていたことの記録としてブログに書いておこうと思った。

『社会人のためのデータサイエンス入門 改訂第3版』by 兄

gacco (無料で学べるオンライン講座)の「社会人のためのデータサイエンス入門」の講義資料が、冊子としてまとまっている。

私も先日、gaccoで上記の講義を一通り受講した。

統計学は最強の学問である」の著者で有名な西内氏をはじめ多様な講師陣が登場する。
内容はとにかく実践的で分かりやすい。
統計学を動画で分かりやすく学びたい人にはおすすめなコンテンツだ。

なお、講義のスライド資料は無料でダウンロードできるため、冊子の購入は必須ではないが、紙媒体を好む人は買っても良いと思う。


『現役東大生が書いた地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』by 兄

商品開発の仕事では、市場規模情報をよく利用する。
これから開発していく商品の儲けを予測する上での参考情報になるからだ。

既存の商品群の改良型開発であれば、その商品の市場規模は既に分かっているので、特に問題にならない。
しかし、今までにない新商品を開発していく場合、その市場規模は不明なことが多いので、自分で新たに市場規模を推定する必要性が出てくる。

そのときに役立つ方法論が「フェルミ推定」である。

本書は東大生が戦略コンサルティングファームの就活対策を意識して執筆した本だが、上記のようなビジネス利用にも耐えうる内容であった。

特に本書で紹介されているフェルミ推定の基本体系と基本ステップ(6パターン、5ステップ)は、よく整理されており、分かりやすかった。


落合陽一『魔法の世紀』

1973年に、SF作家アーサー・C・クラークは、「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」という言葉を残したそうだ。

著者は、この本の中で、
『現在のコンピューター開発の流れは、立体物をコピーする3Dプリンタ技術など、もはやディスプレイの内側だけでなく、その外側へと「染み出し」つつあります。物質が瞬く間にコピーされ、生成される。まるでこの世界自体がファンタジーになりうるような時代です。「魔法の世紀」とは、「映像の世紀」において平面で起こっていた出来事が、現実の世界へ踏み出して行く時代なのです。』
と、語っている。

また、魔法とは、それを見たとき、原理を人に意識させないものなのだという。
そういえば確かにそうだ。
ただ、びっくりしたり、感動したりするから、魔法なのに違いない。

一方、コンピューターの開発も、コンピューターを人間の環境と統一させ、コンピューターへの意識をなくさせることを目指しているそうだ。
こうしてみると、ユビキタスコンピューティングの世界観そのものが、無意識の虚構、すなわち魔法的なもののようにも思えてくる。

著者は、元々コンピューターの研究者と芸術家のふたつの顔を持っており、技術と芸術の両方を包括しながらリアルとバーチャルを駆使して、新しい芸術・メディアアートを生み出している。

進化する技術の中で、インパクトのあるアートを作り出していくことの厳しさもあるようだが、あの、手で触れられるフェアリーライトを生み出した魔法使いのような著者のことである。
きっとこれからも、科学を駆使した夢のある芸術を作り出して行ってくれるだろう。
多いに期待できそうだ。


また、この書のなかでは、コンピューターがどんどん進化していくと、人間とコンピューターはどちらが支配するようになるのか?とか、それを解決していくには、どうしたらいいのか?など、コンピューターと人間の共生についても、意見が述べられてていて、興味深い。

しかし、そんなとんでもなく素晴らしいコンピューターができた暁には、その高い資料処理や計算技術を利用して、まずは、3.11のような致命的事故を起こすことなく、生活インフラを支える方法や、贈収賄や違法ができないような選挙システムなどを作ってもらうことはできないのだろうか?と、つい思ってしまいました。

決してアートを否定しているわけではありません。
夢や魔法はいつの時代も、人々の心を動かす原動力だったと思いますから。

ただ、これを読むことで、改めて、コンピューターの技術進歩に驚き、それとともに、これからは、人間がどんな目的で、どんな意思を持ってコンピューターと共生していくかが、もっともっと重要な問題になってくるのではないだろうか?と、考えた次第です。

魔法の世紀

魔法の世紀

  • 作者:落合陽一
  • 発売日: 2015/11/27
  • メディア: 単行本

中野崇『マーケティングリサーチとデータ分析の基本』by 兄

本書はネットリサーチの最大手である株式会社マクロミル執行役員が書いた本である。

新型コロナの影響で、対面式のインタビューなどはしばらく実施できないため、ネットリサーチを利用する機会が増えるように思う。
調査会社のネットリサーチを利用する前に、概要をさらっと確認するにはちょうど良い内容だ。

調査会社を使いこなし、アクションや意思決定につながるリサーチを実施するには、調査に必要な情報を調査企画書へ落とし込む必要がある。

調査企画書に記載する項目例
①調査背景
②調査目的
③調査地域
④調査対象者
⑤回答者数と割付
⑥調査手法
⑦調査項目
⑧調査時期
⑨調査費用

それぞれの項目に対して、どのように目配りすればよいかを本書で分かりやすく説明している。

最終章ではマーケティングリサーチの最前線にも少し触れており、そこも興味深い。


ジャスパー・ウ『実践スタンフォード式デザイン思考』by 兄

デザイン思考という言葉はビジネスの世界で近年バズワードになっている。
イノベーションを起こすのに、デザイン思考が役立つと考えられているからだ。

本書では、デザイン思考を「人々がもつ本当の問題を解決するための考え方」と定義している。
つまり、問題を解決する方法を設計(デザイン)するための考え方(思考)と捉えると分かりやすい。
著者は、「デザイン」とは「問題解決」だとも言っている。

スタンフォード式のデザイン思考の流れは、5つのプロセスから成る。
①共感
②定義
③アイディア
④プロトタイプ
⑤テスト

これらのプロセスをワークショップ形式で行きつつ戻りつつしながら進めていく。
1つのチームの人数は多様な5~8人が目安だ。

本書では、「①共感」の前に、「テーマ決め」のプロセスがあると指摘している。

早速、各プロセスについて、順を追って説明する。

「①共感」では、インタビューや観察を通じて、ユーザーの困っていることやニーズを深く掘り下げる。
極端なユーザーにも聞くことがポイントである。極端なユーザーは体験のプロフェッショナルなので、普通の人たちよりも多くの不便を体験している可能性があるからだ。

「②定義」では、みんなで解くべき問題を定義する。
ユーザーから聞くことのできた事実をもとに、ユーザーすら気付いていない、裏にある気持ちの動きや感情を予想して、自分たちなりの解釈を加え、真に解くべき問題は何かを見極める。

「③アイディア」では、ブレインストーミング(アイディア出しの手法の1つ)を通じて、問題を解決するための多くのアイディアを出す。
アイディアは分類し、投票で絞りこむ。

「④プロトタイプ」では、アイディアをユーザーに評価してもらうための試作品(プロトタイプ)をつくる。
プロトタイプに時間とお金をかけすぎないのもポイントである。

「⑤テスト」では、ユーザーにプロトタイプを体験してもらい、そのフィードバックを元にアイディアの評価を行う。テストに入る前にアイディア成功の判断基準を決めておくとよい。

以上がデザイン思考の一連のプロセスである。このプロセスのサイクルを小さく何度も素早く回すことが大切である。
「早く失敗する」はデザイン思考では重要な考え方の1つだ。

最後に、デザイン思考を象徴する言葉を紹介する。

スタンフォード大学のデザインスクールの建物の中に、以下の言葉が書かれた大きな垂れ幕がある。

Nothing is mistake.
There is no win and no fail.
There is only make.
間違いはない。
勝利も失敗もない。
あるのは「創造」のみ。

そして、その幕の裏には、また別の言葉が書かれている。

The only way to do it is to do it.
何かをやるための唯一の方法は、やることだ。

安宅和人『イシューからはじめよ-知的生産の「シンプルな本質」』by 兄

イシューとは何か。
日本では馴染みがないが、欧米ではよく使う言葉らしい。

本書の表現の中で、一番しっくりきたイシューの定義を紹介する。

イシューとは、「今、本当に答えを出すべき」でかつ「答えを出す手段がある」問題のことである。

本書のタイトルにもなっている「イシューからはじめよ」の本質は、問題を解く前に、その問題が本当に今解くべき問題(イシュー)なのかの見極めからはじめよ、と理解した。

とにかく解いてみる、全てやってみるという考え方の人もいるだろう。
しかし、人間の時間は有限だし、会社の経営資源も限られている。人生の中で全てを解き終えるのは実質不可能だ。

価値の高いイシューを見極め、それに対して仕事や研究を行い効率と効果を高めることが、世の中にインパクトを残す上で大切なスタンスである。

本書は論理的思考や問題解決の定番教科書だ。
また著者がビジネスマンかつ研究者なので、ビジネスだけではなく、サイエンスにも応用が効くように書かれている特徴がある。
そのため、ビジネスマンはもちろん大学の研究室に配属している理系学生にもオススメの内容である。
企業の研究者の方には、特にぴったりのように思う。

最後に今いちど問う。

あなたが日々の仕事や研究を通じて解いている問題は、そもそも本当に解くべき問題(イシュー)だろうか?

いろいろ考えさせられた良書であった。