【読書】百田尚樹『影法師』

百田尚樹初の時代小説である。
時は江戸時代。舞台は茅島藩八万石(架空の藩)。
士農工商による身分差別が当たり前の世の中で、さらに、武士の中でも上士、中士、下士の格付けがあり、上士による下士の切り捨て御免がまだ罷り通るような時代の話である。
また、同じ武家の中でも、長男だけが家を継ぐことが許され、次男、三男などは、養子になれない限りは、一生家族も持てず屋敷の端の方で厄介者扱いされるような、そんな不条理なことばかりの時代でもあった。
文のそこかしこから、世の中の不平等に一家言ある作者の熱い思いが伝わってくる。

そんな理不尽な世の中で、わずか20石の下士の家に生まれた主人公・戸田勘一が、筆頭国家老にまで登り詰めることができたのは、まさに異例中の異例。
名君直々の大抜擢があってのことだが、
では、お目通りも叶わない身分の勘一が、何故お殿様のお目にとまることてきたのだろうか。

若き頃より、藩の人々の暮らしを向上させたい一心で、政(まつりごと)を考えてきた主人公が、苦難を乗り越えてその夢を実現していけたのは、竹馬の友・礒貝彦四郎の影からの後押し、まさに命を張った力添えがあったからこそだったのだ。

人知れず友を救い、後ろ指差されながらも、友の成功を喜び、ひっそりとこの世を去っていった彦四郎がとにかく格好良すぎる。

社会批判を織り混ぜながら、男気のある人物を描く、百田尚樹らしさを堪能できる一作である。
私的には、最後の袋とじがないほうがもっと良かったとは思ったが、目に浮かぶような情景描写、畳み込むような勢いのある文のうまさで、あっという間に読めてしまった。


影法師 (講談社文庫)

影法師 (講談社文庫)