【読書】羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

五年間勤めたカーディーラーを辞め、時々バイトしながら、家で行政書士の勉強をしている田中健斗、28才。勉強はだらだら。たまに就活をするも、断られてばかり。

母親と、親戚をたらい回しにされてきた母方の祖父との三人暮らしだが、母は悪態をつくし、健斗はほとんど関わらないように暮らしてきた。

しかし、ある時、今まで聞き流していた祖父の言葉『早う迎えにきてほしか』『もう死んだらよか』こそが、祖父の本心なのだと、思い至るようになった。

一度気になると、これまでの祖父への接し方が間違っていたと思えてきて、祖父のために、死にたい苦痛や恐怖心さえない穏やかな死。究極の自発的な尊厳死への、手助けをしてやろうと思いついた。

介護福祉師の友人のアドバイスもあり、『被介護者の動きを奪って、弱らせる』ことを目指した。
身の回りのことは何でもやってあげて、本人の生きる気力を失わせ、衰えさせるよう仕向けるのだ。

それからというもの、健斗はやたらと手助けし、祖父が社会復帰するための訓練機会を奪い、体の機能が衰えていくのをひたすら待った。

その一方で、衰えていく祖父を間近に見ることで、自分がまだ若く、恵まれた体を持っていることに気付き、筋トレやランニングを始め、自らを鍛えるようになっていった。

お陰で、今までのぐうたら生活はどこへやら、生活にメリハリがついてきた。

そして、祖父の近くに寄り添ううちに、死にたいのが本心ではないことにも、気付くこととなった。
お風呂に入れるとき、ちょっと用を足して戻ると、祖父が溺れかけており、必死に助けると、なんと死にたい筈だった祖父から『ありがとう。死ぬとこだった』と言われたのだ。
つまり、とんだ思い違いをしていたわけだ。

不純な動機とはいえ、老いと闘う祖父と向き合うことで、健斗はだんだん変わっていき、新しい自分がビルドされていった。

就職がきまり家を出る健斗に、すがりついてくるかと思っていた祖父が送った『じいちゃんのことは気にせんで、頑張れ』というはなむけの言葉が、とてもいい。

病院サイドの都合の介護過多やら、介護師の低賃金問題やら、さりげなく社会問題も折り込みながら、老人と家族の化かし合いを小気味良く描いていて、あっという間に読んでしまった。