【映画】『葛城事件』

『葛城事件』は近年起こった恐ろしい事件「付属池田小事件」をべースに、「土浦連続殺傷事件」のサバイバルナイフの要素や、「秋葉原通り魔事件」「池袋通り魔殺人事件」などの通り魔的殺人をからめた、限りなく事実に近い、フィクション映画と言えるだろう。

狂気的殺人を犯した息子の死刑判決で、家族が崩壊していくストーリーかとも思ったが、この家族は、明らかにもっとずっと前から崩壊を始めていた。

父から譲り受けた金物屋を切り盛りしながら、マイホームを購入し、息子二人の四人家族を守ろうとしてきた頑固で常にえらそうな父・清。家に招いた客達に『長男の保には、大学をでて、もっと良い職に就いて欲しい』と、豪快に語り、『母親は働きにでるな』『男は一国一城の主になってこそ一人前だ』と、昭和のお父さん丸出しで、こうあるべき論を家族に押し付け、縛りつけてきた。『この20年、めでたいときにはいつでも、お決まりのここの中華で祝ってる』と、祝いの席で振る舞いながらも、勝手に味が変わったとか、支配人を呼べとか怒鳴り付け、同席のもの達を不快にさせる。まあ、まわりの気持ちを顧みない、いわゆるしょうもない頑固親父である。

コミュニケーションがうまくとれないくせに短気で自尊心が強く、仕事も何も続かない次男・稔に対し、清は憤り、包丁を持ち出したりもする。母親・伸子は、やたらと甘く、いつも夫との仲を取り持とうとするが、うまくいかない。そしていつも、夫に怒鳴られ、殴られる。

結婚した長男は、おだやかな性格で、二人の子供がいるが、家を持つどころか、職もなくし、さらに、それを妻にも言えないまま、自殺してしまった。

切れた稔は、結局最悪の最後を選択し、なんの罪もない通りがかりの人々を殺傷してしまった。そして、伸子は正気を失ってしまう。

結局、清だけが、文句を言われながらも、マイホームに残るのだった。

『俺がいったい何をした!』
と、コピーにもあるが、清本人には全くその自覚がないのだから、たちが悪い。そして、ひとりぽっちでのエンディング。


しかし、この映画の本当に恐ろしいところは、罪の深さや、家族の崩壊ぶりではなく、そこに繰り広げられる言葉や光景が、どこか身に覚えがあるように感じることだ。この台詞、ついこの間、誰かが言ってなかっただろうか?そう考えるとよけいおぞましい。

これは、決して他人事とは言ってられない。自分達は、本当に大丈夫なんだろうか?

ダメな頑固親父を三浦友和が、いつも所在無げな伸子を南果歩が、それぞれの味を出してうまく演じている。