【読書】高橋弘希『指の骨』

 若き異才が戦地の狂気と真実を描き、第46回新潮新人賞を受賞。

 太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵が、激しい肩の痛みで目を覚ますと、そこは、島の臨時第三野戦病院だった。激戦最中の南の島の一角にもかかわらず、そこでは、時がゆっくりと過ぎていく。

 銃創の手当てが落ち着くと、回りがだんだん見えるようになる。薬も底をつき、手の施しようもないマラリヤや、風土病で、ただ、死を待つだけの患者達。一つまた一つと空いていくベッド。その度に、衛生兵によって切り取られる遺族のための指の骨。

 その現実の一方で、利き腕を失った一等兵清水は、ひたすら思い出を鉛筆で描き、戦友眞田は、現地人に日本語を教えては、食べ物を調達してくる。そして国に残してきた子供の話を聞かせてくれた。切り株から、こけし職人が作りだした将棋が流行り、ひとときブームになったりもする。

 しかし、そこはやはり野戦病院。やがては眞田も病死し、主人公はその指の骨を形見に預かることとなった。

 気づけば、攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、動ける者たちは、病院からの退避を余儀なくされた。

 戦うのではなく、ひたすら歩きさ迷うだけの日々。薬もなく、無力をなげいた24歳の若き軍医は、自死を選ぶ。食べ物も水もつき、人の肉にまで食指を伸ばそうとする狂気。

 リアルに、しかも淡々と語ることにより、戦場の狂気と哀しみ、異常な世界が、あぶり出されてくる。

 実に不気味で恐ろしい。

 しかし、決して忘れてはいけない、繰り返してはならない負の事実だからこそ、この新世紀戦争文学を、是非とも、戦争を知らない若い世代にもたくさん読んでもらいたい。


指の骨 (新潮文庫)

指の骨 (新潮文庫)