【読書】吉村萬壱『臣女 ( おみおんな ) 』

 どうしたことか、夫の浮気を知った時から妻の奈緒美の身体が、日に日に巨大化していく。

 高校講師の傍ら、とるに足りない小説を書いていた平凡で小心者の夫は、妻を近所の人たちに気づかれないよう必死に隠しながら、大量の食べ物を買いこみ、大量の汚物の処理に苦しみながら、懸命に介護することになる。

 奈緒美の身体は、大きくなるにつれ、激しい歪みが起こり、匂いがきつくなり、身体の中からは、泡が弾けるような不気味な音まで聞こえてくる。

 理解不能な化学変化が起こっているらしい。

 そのおぞましい成長過程で、ある日突然、奇跡的に巨大ながらも艶々して美しいバランスの身体になった奈緒美を見て夫は感動、興奮状態になったりもする。

 なんだろう。この逃げ場のない闘いの中で、ふたりは不思議な一体感を築いているようだ。

 しかし、喜びもつかの間、奈緒美はまた、歪んだり変な声をあげたり、乱暴になったりしながら、身長四メートルを越えてもひたすら成長を続ける。

 どう頑張っても、もう、汚物の処理もままならず、近所の人達に奈緒美の巨体のことがわかるのも、時間の問題である。

 そして、ふたりは決死の覚悟で、悪臭漂う我が家を出ることにするのだ。


臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)