澤田瞳子『若冲』

 若冲は、京の青物を取り仕切る大店の長男として生まれた。23才で家督を継いだが40才で弟に店を譲り隠居。85才で死ぬまで、絵を描き続けた。

 家業を顧みず、絵を書く若冲を、少しでも落ち着けようと、母は三輪を娶らせたが、いっこうに暮らしぶりは変わらなかった。

 三輪は姑からその事で責められ、子ができないことでいびられ、人嫌いの夫からは、守られるどころかかまわれない。三輪は哀しみにくれ、2年も立たずに、土蔵で首を吊ってしまった。

 それからというもの、若冲は一層絵にのめり込んでいった。

 敢えて因縁の土蔵を見据えながら、何もしてやれなかった自分の過ちを責め、三輪を悼む手だてとして、ひたすら絵を描き続けた。

 三輪の弟、君圭は、姉を死に追いやり、いまだに平然と絵を描く若冲が許せない。批判を込めて若冲の贋作づくりに力を注ぐ。

 それにしても、何という因果か。

 その後、若冲と君圭は、お互いを敵対し、意識しあいながらも、作品を極めて行くのである。そして若冲の絵は妻への鎮魂を越え、君圭の絵は怨念を越え、芸術となった。

若冲 (文春文庫)

若冲 (文春文庫)