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科学のカラヴァッジョ派ブログ

ブログのコンセプトは「文学少女が物理学の本を読んだら」です。科学の恋愛至上主義。外見重視。

大栗博司さんの物理学

大栗博司さんは1962年岐阜県で生まれ、数学者の高木貞治さんと同じ尋常中学/高校に入学しました。高木貞治さんは百科事典「プリンストン数学大全」の数学年表にフルネームで載っている唯一の日本人です。類体論を証明し、その類体論と楕円関数論を駆使して「虚2次体のクロネッカー青春の夢」を解決しました。理科系の学生には「解析概論」の著者としてよく知られています。大栗さんも「解析概論」で勉強をしたそうです。ちなみにこの本は無味乾燥な数学書ではありません。例えばこんな文章があります。

複素数の世界では、微分可能も積分可能も同意語である。驚嘆すべき朗らかさ!コーシーおよびそれに先立ってガウス虚数積分に触れてから約百年経て、我々はこの玲瓏なる境地に達しえたのである。

数学の能力と文学的感受性を併せ持つ大栗さんにはぴったりの本だったのだろうと想像します。
話を戻しますと、高校を卒業された大栗さんは京都大学理学部に進みます。後に大学の4年間は人生で一番勉強したと振り返っています。
大栗さんが大学院に進んだ1984年は、超弦理論が究極の理論である可能が急激に高まっていた時期で、大栗さんも「これが最終回答に違いない」と考え超弦理論に惹かれました。
ところで、超弦理論は9次元の空間を要求します。しかし私たちの空間は3次元です。6次元の余剰次元があるわけです。そこで、余剰次元をコンパクト化しなければいけません。そこで、ウィッテンは私たちの3次元空間をうまく説明できる条件とは何か調べました。そして、コンパクト化したときにその条件をぴったり満たす6次元空間が、6年前の1978年に数学者によって見つかっていたことを知りました。これをカラビ・ヤウ多様体といいます。
大学院の1年生のとき大栗さんは、6次元のカラビ・ヤウ多様体オイラー数が素粒子の世代数に関係していることを知り、直接には見ることのできない空間の性質の中に、自然界の法則が書き込まれている可能性があることを、実に美しいと感じたそうです。それからは、いったいどうしたら距離さえ分からない6次元空間から3次元の素粒子の性質を導き出すことができるのかを考え続け、1992から滞在していたハーバード大学で出会った研究者と共に、その一部を厳密に計算する方法を開発しました。その後も大栗さんは10年近くこの問題を考え続け、いろいろな方法を開発しました。そして、一連の研究の結果その計算方法を使いブラックホールの状態数を計算しました。3次元空間におけるブラックホール量子力学的状態と、丸め込まれて見えない6次元空間の幾何学的な性質のあいだに密接な関係があることも明らかになりました。大栗さんは、大学院の1年生のとき6次元空間に書き込まれた自然法則を知りたいと望んで、この分野の研究者になりました。ブラックホールの仕事を完成することで、ようやく一歩踏み出すことができたように思ったそうです。
業績が認められ、2008年大栗さんは高木レクチャーで「弦理論から見た幾何学」という講演をしました。高木貞治さんを記念して開かれているイベントです。
そして2013年に弦理論の解説書「大栗先生の、超弦理論入門」を出版しました。


最後に、未来の数学についての大栗さんの文章を引用して終わりたいと思います。

超弦理論によって、複素数の発見と同様の変革が幾何学に起きるかもしれない。ユークリッドの原論第1巻が「点は部分をもたないものである」という主張から始まるように、2300年以上にわたって幾何学の基礎は大きさや構造をもたない“数学的点”であった。超弦理論は1次元に広がった弦を基本単位にするので、幾何学に新しい見方をもたらしている。

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

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定本 解析概論

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