読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

科学のカラヴァッジョ派ブログ

ブログのコンセプトは「文学少女が物理学の本を読んだら」です。科学の恋愛至上主義。外見重視。

小山慶太『寺田寅彦 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学』

 小山慶太さんの『寺田寅彦 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学』のメモ。


 和魂洋才の物理学。

 寺田寅彦は光や原子ではなく、尺八、金平糖、椿の花、線香花火について研究した。寺田寅彦の物理学には風情がある。




 寺田寅彦の口癖。

「ねえ君、不思議だと思いませんか?」




 夏目漱石との出会い。

 寺田寅彦が入学した熊本の高校の英語の先生が夏目漱石だった。寺田寅彦は「まるで恋人にでも会いに行くような心持ち」で漱石の自宅に足繁く通い、俳句をよんだと回想している。




 夏目漱石と科学。

 英文学を研究するために留学していた漱石は、ロンドンから妻宛てに手紙を書いた。「近頃、文学書は嫌になり、科学の本を読んでいる。」




 寺田寅彦とレイリー卿。

 レイリー卿は「空はなぜ青いのか」という疑問を解明した。そのレイリー卿が書いた『音響理論』を修繕寺で温泉に浸かりながら読んだ寺田寅彦は、博士論文として「尺八の音響学的研究」を書いた。尺八の奏者は首の傾き加減を変えることで音の高低を調節し、哀調を帯びた音色を聞かせてくれる。ねえ君、不思議だと思いませんか?

寺田寅彦 - 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学 (中公新書)

寺田寅彦 - 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学 (中公新書)

原田マハ『暗幕のゲルニカ』

「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」ーーパブロ・ピカソ



 1937年、4月26日。内戦真っ只中のスペイン、バスク地方の小都市ゲルニカを、反乱軍とナチスドイツの航空部隊が空爆した。その惨状を知ったピカソは反乱軍と闘う共和国政府を支援しようと絵筆を取った。


 モノクロームの巨大な画面。泣き叫ぶ女、死んだ子供、いななく馬、振り向く牡牛、力尽きて倒れる兵士。それは、禍々しい力に満ちた、絶望の絵画。1937年パブロ・ピカソ作、ゲルニカ

 綺麗な花やかわいい女の子の絵が好きな十歳の少女が一目見ただけで、その絵の前から動けなくなった。

 20年後その少女は、MoMAのキュレーターとなった。

 9・11の悲劇のあと、傷ついたニューヨーク市民のために、テロと戦争に反対する世界中の人々のために、いったい何ができるのか考え抜いて、彼女はひとつの結論に至る。


 それは、アートを通じて、反戦、反テロのメッセージを伝えること。パブロ・ピカソがそうだったように。

 そして、彼女は、「ピカソの戦争」展開催のために、まさに命懸けの奮闘をする。

暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ

早見和真『イノセント・デイズ』

ーー「もし自分を必要としてくれる人がいるんだとしたら、もうその人に見捨てられるのが怖いんです」
「それは何年もここで堪え忍ぶことより、死ぬことよりずっと怖いことなんです」
そう繰り返す彼女は、驚くほどキレイだった。

本を読み終わったとき、この言葉が脳裏に強くこだました。

繊細で傷つき易くて優しくて、不器用な生き方しかできない田中幸乃。
彼女をひたすら突き動かしていたものはいったい何だったのだろうか。


元恋人の妻と幼な子を放火殺人した凶悪犯。
不幸な生い立ち、義父からの暴力、中学時代の強盗傷害、それら全ての暗い過去をまとい、いかにもやりそうだよね。と、世間が作り出していった死刑囚の女の姿。

人びとが思い描いた彼女の虚像と、本当の彼女とのあいだの深い溝は、いったいなんなんだったのだろう。


作者は、様々な角度から事実を積み重ね、真相を追い、驚愕の真実に、そして、表れにくい田中幸乃の内面にも、静かにしかし着実に迫っていく。
まさに、これは新しい形のミステリーと言えるだろう。

ーー私は見届けなければいけないのだ。彼女が死ぬために生きようとする姿を、この目に焼きつけなければならなかった。

この切なすぎる言葉が紡ぎ出す真実は、果たしてなんだったのだろうか。

貴方にも、是非読んでもらいたい。
そして、貴方の目にも、彼女のその姿を焼き付けてもらいたいと切に願うばかりです。

イノセント・デイズ (新潮文庫)

イノセント・デイズ (新潮文庫)

コンツェヴィッチの「自在さと危うさ」

 数学者についてのエッセイ集 ( 『現代幾何学の流れ』) に載っている深谷賢治さんのコンツェヴィッチについての文章が面白かった。


「コンツェヴィッチは計算を説明するときにいつも絵を描く。その式変形には、絵で説明できる理由があり、式を直接いじっているわけではない気がする。」

「コンツェヴィッチの数学には、『自在さと危うさ』がある。」

「コンツェヴィッチの道具箱には数学の諸方面から集めた多くのものが詰まっていて、それを突然意外なところで持ち出してくる。元来の場所からかけ離れた場所で持ち出されると、数学の道具といえども、隙がなく厳密に使えるようには整備されていない。それでも、その意味の要点を抜群のセンスで的確に把握していれば、ここでこれをこう使えばいいはずだといいっぱなしておいても、そう大きくは間違わない。これがコンツェヴィッチの『自在さと危うさ』の秘密の一端であろう。」

「コンツェヴィッチの自在なスタイルが、数学研究のあり方の1つとして今後定着するのか、それとも限られた天才の特異な現象となるのか、未だ定かでない。」

現代幾何学の流れ

現代幾何学の流れ

木田元『新人生論ノート』

 三木清が昭和十六年に『人生論ノート』を書いた。出るやいなやベスト・セラーになった。戦前のエリートの卵 ( ゆで卵ども ) である旧制高校生にとって西田幾多郎善の研究』や阿部次郎『三太郎の日記』と並ぶ必読書となった。


 三木清は死について、幸福について、懐疑について、習慣について、孤独について、希望について独特の文体で綴った。例えば、懐疑について。

 「不確実なものが確実なものの基礎である。パスカルは『人は不確実なもののために働く』とさえ言っている。なぜ懐疑が生まれるかといえば、いかなる者も他を信じさせることができるほどには、自分を信じさせることができないからなのである。
 懐疑は方法であり、そのことを理解できた者のみが、初めて独断も方法であることを理解する。」

 というふうに。


 『新人生論ノート』は哲学者の木田元が、木田テイストで三木清の『人生論ノート』を書き直した本。故郷について、記憶について、運命について、笑いについて、人生行路の諸段階について、死について、理性について、性格について、読書について、自然について、戦争体験について、遊びについて、書いてある。


 私は「笑いについて」が一番面白かった。

 まず木田さんはベルクソンホッブズの笑い論を軽く紹介した上で、自分にとっての笑いはこれらとは違うと退け、以下のように書く。


 「笑いは人間が孕んでいる不合理や矛盾を肯定することからはじまる。
 警視総監が泥棒であっても、それを否定し揶揄するのではなく、そのような不合理自体を、合理化しきれないゆえに、肯定し、丸呑みにし、笑いという豪華な魔術によって、うやむやのうちにそっくり昇天させようとするのである。
 合理の世界が散々もてあました不合理を、もはや精根つきはてたら突然不合理のまま丸呑みにして、笑いとばしてしまうことである。」


 そのあと、第六章「死について」にこんな話が書いてある。

 十八、九のころからずっと親しくしてきた友人の三井君が他界したのは、昭和五十八年だった。享年五十四才。
 六月に肺癌が発見され、その時点であと三ヶ月と言われたが、そのとおり、九月の初めに急逝した。幾度も見舞ったが、とてもそんな間近に死が迫っているとは思えない様子だった。本人も間もなく勤めていた新聞社に復帰できると思い、毎日病院の階段を昇り降りして脚のリハビリをしていた。
 九月四日の朝、危篤だという電話を奥さんからもらい、三時間近くかけて十一時すぎに病院に着くと、もう酸素テントに入っていた。三井君は私の顔を見て、右手を挙げ、笑いかけた。人生なにが起こるか分からないねとういふうに。

新人生論ノート (集英社新書)

新人生論ノート (集英社新書)

平野啓一郎『葬送』、叙事詩。

舞台はパリ。

それも、ブルジョア中心の7月王政から、市民革命、第二共和制へと、めまぐるしく移り変わりゆく激動のパリ。


サロンで時代の寵児として愛される天才音楽家ショパンとその愛人ジョルジュ=サンドのロマンスと離別、天才画家ドラクロワとの友情と芸術論、きらびやかで、我々一般人とはかけ離れた世界の、絵空事かと思って読み始めた。


しかし、否。

この本は、そんなありきたりな夢物語を描いている訳ではないのです。


作者平野啓一郎が、4年の月日をかけたという緻密な考証はただものではない。

激動の中で、変わりゆく価値観に抗いながら、自分達の運命に翻弄されていく天才達の心の葛藤、苦悩を丹念に紡ぎあげた珠玉の書といえるでしょう。

才能に恵まれながらも、39才という若さでこの世をさらなければならなかったショパンの哀しみ。
そして、二度と再び踏むことのできなかった故郷ワルシャワの地と母への強い思慕。

親友の死すら正面からうけとめられない自分に、自問自答し続けているドラクロワの苦悩。

これは、まさに繊細でフラジャイルなショパンの調べそのものであり、心の葛藤や苦悩を丁寧に綴った、まさに、魂の叫びの書なのかもしれません。

葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫)

葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫)

葬送〈第1部(下)〉 (新潮文庫)

葬送〈第1部(下)〉 (新潮文庫)

葬送〈第2部(上)〉 (新潮文庫)

葬送〈第2部(上)〉 (新潮文庫)

葬送〈第2部(下)〉 (新潮文庫)

葬送〈第2部(下)〉 (新潮文庫)

シュレディンガー方程式と花柄模様

シュレディンガー方程式との出逢い

シュレディンガー方程式を初めて見たとき、汚いなって思ったんです。今まで綺麗な方程式をたくさん見てきたから。


導出の過程がいびつだし、ルックスもスマートじゃない。あんまり好きじゃないなって。



それが、シュレディンガー方程式から球面調和関数が導かれるのをみて、見直したんです。


シュレディンガー方程式も悪くないじゃないかって。いや、むしろ好きかもって。




でも、まだきらいなところはあります。


なんといっても、あのラプラシアンです。



ラプラシアンを見ていると、あの三角の空洞に針を通して花柄の刺繍を入れたくなります。そうしたら、もっとましなルックスになると思うんです。


ラプラス作用素 - Wikipedia


大人のモダン刺繍 テキスタイルを描くように刺す 刺繍小物

大人のモダン刺繍 テキスタイルを描くように刺す 刺繍小物