【映画】『カムバック!』

 少年時代天才サルサダンサーとして、妹のサムと賞を総なめにしていた主人公・ブルース。
 しかし、大切な選手権当日に、悪質ないじめで出場できなくなったことをきっかけに、サルサがトラウマとなり完全に封印。

 以来25年の歳月が立ち、軽いステップどころか、いまやぱっとしないただのデブ会社員になりさがっていた。

 しかし、新しくやってきた素敵なボスに一目惚れ。しかも、彼女がサルサを愛する女性と知り、トラウマと彼女への思いで心がみだれる。

 迷った挙げ句、デブのオタクが重い腰をあげ、再びサルサに挑戦する。

 ついに本格的なカムバック!!!

 ぽっちゃりしたボディで繰り出す、切れのいいステップが無性に格好いい󾬄。

 決まっているのに、ついつい笑いがこぼれてしまう。

 イギリスジョークが飛び交うロマンチック・コメディを、理屈抜きで思い切り満喫して欲しい。

カムバック! (字幕版)

カムバック! (字幕版)

【読書】つんく♂『だから、生きる。』

 つんく♂が、喉頭癌で声帯を摘出する。

 このニュースを耳にしたときの驚きは、今でも覚えている。
 なんと言っても、あの張りがある甘い歌声とハロプロのプロデュースで、歌謡界を牽引していた最中のこと。
 むしろ、驚かないほうが不思議だろう。


 この本は、自らがプロデュースした近畿大学の入学式で、声帯摘出を公表したところから始まり、時を遡っていく。

 忙しい毎日の中で、喉の不調を感じながらも、その兆候を見逃してしまったこと。
 自分の感覚を信じず、治療が手遅れになってしまったこと。

 奥さんとの奇跡的な出会いと子どもたちとの幸せな暮らし。

 そして、声帯全摘手術。

 一般人の自分の立場で思い馳せても、大変なことなのに、音楽を生業としているつんく♂が、どんな思いで手術に臨んだことか。

 しかし、つんく♂は、

 自分が歩いてきた道に、後悔が一つもないと言ったら嘘になる。

 と言いつつも、

 この世の中のいろんな場所に、心癒される素敵な出会いがたくさんあることを癌になって知った。と感謝し、

 守るべき者がいるーーーこれはこの世の中で何よりも幸せなことなのではないか

 と語る。そして、

「僕は妻を愛している。子供たちを愛している。だから、生きる。」

 と、言いきっている。

 この力強い言葉に、癌を克服してから一回り大きくなって、格好よくなったと感じるのは私だけだろうか。


「だから、生きる。」 (新潮文庫)

「だから、生きる。」 (新潮文庫)

【映画】『聖の青春』

 29才の若さでこの世を去った関西の天才棋士村山聖の凄絶な一生を、淡々と切実に描いた映画である。

 幼い頃から、腎ネフローゼという難病に苦しんでいた聖は、入院中に覚えた将棋に夢中になり、森師匠のもとでメキメキと頭角を表し、7段への道をかけ昇っていく。
 同世代の羽生善治らとのバトルは、まさに死闘。
 膀胱癌にまで蝕まれ、いつ倒れてもおかしくない状態でありながらも、必死に試合の席に臨み続ける。
 勝つことに執念を燃やし、羽生に食らいついていく命懸けの姿が胸を打つ。

 主演の松山ケンイチが20キロも増量して、主人公の辛い症状と、熱い思いを演じている。


聖の青春

聖の青春

【読書】住野よる『また、同じ夢を見ていた』by 兄

 1作目『君の膵臓をたべたい』で一躍有名になった、住野よるさんの2作目『また、同じ夢を見ていた』を読みました。

 1作目に引き続き、文章自体は平易なのですが、言葉の選択や組合せが美的でリズミカルなので、文章が味わい深いです。

 住野さんの作品の特徴と思っているのですが、今回もメッセージ性のある言葉が物語の中に散りばめられていました。

 さて、この本のテーマは、「幸せ」です。

 小学生の主人公は、国語の授業で、幸せとは何か、という課題を与えられます。
 そして様々な出会い、経験の中で、自分にぴったりな答えを探していきます。

 幸せとは何か、この答えをお持ちでしょうか?
 正解はありませんが、やみくもに考えていても、うまくたどり着けません。
 ある程度の導きは、必要でしょう。

 この本には、答えのヒントがたくさん詰まっています。
 主人公と一緒に考えていくと、あなたにぴったりな幸せの定義がみえてくるかもしれません。


また、同じ夢を見ていた

また、同じ夢を見ていた

【読書】村田沙耶香『ギンイロノウタ』

『ギンイロノウタ』には「ひかりのあしおと」と「ギンイロノウタ」の2編が納められている。

「ひかりのあしおと」は、小学二年生のとき、〈ピンク色の布地に包まれた怪人〉にトイレに閉じ込めらた主人公・誉が、大学生になった今でも、人型の光に囚われるという強迫観念に苦しみ、友人達とうまく付き合えず、気持ち悪がられているストーリー。なぜかいつもすぐに恋人ができる主人公だが、そのレンアイすらも、狂気に満ちていて救いとは程遠い。



「ギンイロノウタ」は、生まれた時から内気で、誰をもイライラさせてしまうような主人公・有里が、人気アニメの「魔法使いパールちゃん」にのめり込み、魔法のステッキの代わりに銀色の指示棒を振り続けるストーリー。

 暗い押し入れの下段に隠れ、魔法がいつかできるようになると夢想しながら、指示棒だけを拠り所とする。
 きっとできる、大人になれば。
 きっと愛される、大人の女になれば。
 早く、早く大人になりたい。
 その夢を否定された瞬間から、どんどんひずみ、歪んでいく主人公の心と、それにつれて生まれる殺意のおどろおどろしさ。


 この二作品は、どちらも生々しくて毒がある。とにかく容赦がなく恐ろしい。

 題名からして、もう少し癒される話かと思って読みはじめたが、とんでもない。それどころか実に気味が悪い。

 ただ、二人の主人公の心がここまで歪んでしまった原因が、実は、やたら愛らしく子供っぽくて、人々の愛情を独り占めしてしまう母や、夫に怯えながら、夫の前で甘い声を出したかと思うと、急に声が裏返り、般若のように変身してしまう母との関係性に由来するものだと気づくと、胸に響くところもあるのではないだろうか。

 誰もが共感できるような話ではないけれど、必ずしも目を背けることはできない。

 そんな、心の闇を描いたお話である。

ギンイロノウタ (新潮文庫)

ギンイロノウタ (新潮文庫)

【読書】村田沙耶香『コンビニ人間』

 コンビニには、どうやら独特の音があるらしい。

 コンビニ店員は客の細かい仕草や視線を自動的に読みとって反射的に素早く行動することを求められるらしい。

 小さな頃から、人とことごとく違い、変な子扱いされた主人公だが、どうやらコンビニ店員として生まれることができてからは外との繋がりができたらしい。

 トレーナーのお手本やビデオの真似をすると、今まで教えてもらえなかった普通の表情や声の出し方、完璧な笑顔ができるらしい。

 そして問題児だった主人公も世界の正常な部品として受け入れられるらしい。

 そしてある年齢になったら男も女も恋愛をして結婚をして子供を作るのが正常らしい。

 凄く働いてる人だけはどうやら許されるらしいが、主人公のように18年間コンビニバイトだけなどというのはありえないらしい。

 大抵の場合はそうしないとあちら側の人と認識され、こちら側には差別され続けるらしい。

 そんなわけで主人公も、いっとき不本意ながらも、こちら側の人らしく見せようと努力したが、自分にはやはりコンビニしかないと実感し、コンビニ人間に戻っていく。

 というシンプルだが感慨深いおはなしであった。

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

【読書】松岡佳祐『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』

 シャーロック・ホームズ……世界で最も有名な探偵と言っていいだろう。

 そのホームズを作者のコナン・ドイルが、悪の帝王モリアーティと共にライヘンバッハの滝壺の中に突き落とし殺してしまったのが1893年
 読者達の切望に応えてホームズが生還。「空き家の冒険」でライヘンバッハの真相が語られたのが1903年のことである。

 だが、そのホームズが死亡したと考えられていた不在の時期については「チベット等東洋に行っていた」と説明されただけであまり語られていない。

 その謎に秘められた時期にホームズが密かに日本に渡り、歴史的な難事件を解決していたというのがこの話である。

 ロシアのニコライ皇太子が警備中の巡査に切りつけられるという日露戦争にもなりかねない大津事件を題材に、ホームズが日本一有名な政治家・伊藤博文とタッグを組んで解決していく。

 ホームズが要所で見せる、抜群の推理力が小気味よいのは当然だが伊藤博文とホームズの人間関係、ホームズとマイクロフトの兄弟関係の機敏等が織り混ぜられ、さらには公害問題等までが絡まって一層深い話になっている。

 シャーロキアンならずとも充分に楽しめるエンターテイメントストーリーと言えるだろう。