【読書】加藤シゲアキ『傘をもたない蟻たちは』

 NEWS・加藤シゲアキ初の短編集は、とにかく多彩である。

 登場人物は、美大生、サラリーマン、ライター、中学生と、さまざまで、ちょっと独りよがりの主人公が多く感じるが、それも時代の反映なのか。

 今を生きる人々の、生と性、喜びと哀しみ、裏表を、淡々と語ることにより、かえって切なさが伝わってくる。

 サラリーマンの悲哀から、ちょっとおどろおどろしいようなラブストーリー。

 さらに、「イガヌの雨」に至っては、空から摩訶不思議で不気味な、しかし、忘れられないほど甘味な生き物が降ってきて人々の心を鷲掴みにしてしまうというお話。いったいどこからこんな得たいの知れない話を思いつくのだろうか?

 とにかく自由自在に飛び交う、著者の豊かな発想を楽しんで欲しい一冊である。


【読書】原田マハ『モダン』

 モダンアートの聖地、ニューヨーク近代美術館MoMAを舞台に、そこで働く人々の夢や、哀しみ、迷い、決断等を、日常の暮らしに落とし込んで綴られた短編小説集。

 自ら、フリーのキュレーターで、カルチャーライターとして活動する原田マハならではのセンスや経験がいかされた作品たちである。

 個人的には、「私の好きなマシーン」に登場する初代館長が印象に残る。

 こんなにも、館長の意向が反映するのか!という新鮮な驚きとともに、工業デザインをアートの領域にまで導いた彼の言葉が、耳に残った。

「知らないところで、役に立っていて、それでいて美しい。そういうものを『アート』と呼ぶ」


 この短編を読み終えたら、MoMAを舞台とした著者の長編、『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』を読むことを、是非ともお薦めしたい。


モダン (文春文庫 は 40-3)

モダン (文春文庫 は 40-3)

【読書】西加奈子『サラバ!』

 主人公・歩 ( あゆむ ) がイランのテヘランで産声をあげてから、エジプト、大阪で育ち、小説を書き始めるまでの日々が綴られている。

 エジプトのカイロ育ちの著者による、実体験と思われる生き生きしたエジプト描写に、ぐいぐいと引き込まれた。

 また、そこかしこにちりばめられた軽やかな関西弁が効いている。


 個性的過ぎる家族の中で、気配を消す技術を身につけながら育った人気者の美少年歩が、気がつけばハゲで無職で彼女なしの、ひとりぼっちの34才に。その心の変遷と葛藤が、魅力的な登場人物達との関わりとともに描かれている。

 中でも、少年期に過ごしたカイロで、言葉もわからないのに通じ合えたエジプシャンの少年ヤコブとの友情は印象的。題名にもなっている『サラバ!』は、二人の心の合言葉であり、長い月日を経て再会したふたりを繋ぐ魔法の言葉でもあった。

 アラビア語の「さようなら」を意味する「マッサラーマ」 と「さらば」を組み合わせて歩がいい始めた「マッサラーバ」には、「さようなら」だけでなく「明日も会おう」「元気でな」「約束だぞ」「ゴッドブレスユー」「俺たちはひとつだ」等様々な意味が込められるようになっていった。


 そして、再会の場で『サラバ!』の言葉を交わし合うことにより、長いことさ迷っていた歩は、漸く自分の信じるものを見つけることができた。そして、三年の月日をかけて、ついに自叙伝『サラバ!』を、書き上げたのだった。


サラバ! 上 (小学館文庫)

サラバ! 上 (小学館文庫)

サラバ! 中 (小学館文庫)

サラバ! 中 (小学館文庫)

サラバ! 下 (小学館文庫)

サラバ! 下 (小学館文庫)

【映画】『イエスマン“YES”は人生のパスワード』( by 兄 )

 中年男性のカールは、離婚後全てのことにやる気を無くしていた。

 あらゆることに「ノー」と言ってきた。当然、友達からの誘いは全てお断り。人も仕事もカールから離れていった。

 ひょんなことから、「イエス」セミナーに参加。全てのことに「イエス」と答えることにした。魔法の言葉「イエス」が、新しい出会いを呼び込み、恋愛、友情、仕事の全てが次々と好転していく。

 だが、やがて「イエス」の魔法が溶けてしまう。最後、カールは「イエス」の真の答えに辿り着く。

 あなたは「ノーマン」それとも「イエスマン」?

【読書】西内啓『統計学が最強の学問である』( by 兄 )

 刺激的なタイトルの本だ。

 漠然とした統計学への関心から、この本を手にとった方も多いと思う。私もその一人だ。遅ればせながら、読んでみた。

 この本は統計学の実際の使い方を教えてくれる本ではなく、統計学活用の心得を伝える本といって良い。

 個人的に参考になったポイントを3つ紹介する。


①全数調査 vs サンプリング調査
・サンプリング調査は驚くほど正確。全数調査では偏りが生じやすいケースもある。
・サンプリング調査にすることで、多少精度が低下するかもしれないが、その結果、実際に下すべき判断やとるべき行動にどのような影響があるのか。影響しないレベルであれば、全数調査にかけるコストはムダ。

②データをビジネスで使うための「3つの問い」
【問1】何かの要因が変化すれば利益は向上するのか?
【問2】そうした変化を起こすような行動は実際に可能なのか?
【問3】変化を起こす行動が可能だとしてその利益はコストを上回るのか?

③誤差と因果関係が統計学のキモ
・ただの集計ではなくその誤差とP値(意味のない差が生じる確率)についても明らかにすること。
・適切な比較を行うこと。直接的な利益もしくは利益に結びつく因果関係が明らかな指標を比較対象にする。
・因果関係には向きがある。第三の要因が介在することも念頭に置く。
・因果関係を調べたいときの最強ツールが、ランダム化比較実験。
・ある程度の数でランダム化してしまえば、実験対象の誤差を抑え、条件を揃えることができる。


 以上、3点である。

 この本をきっかけに学習を深め、統計リテラシー(統計学的な思考方法)を身につけていきたいと思う。そして、最速で最善の答えを導き出すビジネスツールとして活用していきたい。

 あらためて私も思う、統計学が(万人に必要な)最強の学問であると。


統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

【読書】阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

『キャプテンサンダーボルト』は、現代日本文学のトップランナー阿部和重と当代きっての人気作家伊坂幸太郎がタッグを組んで「完全合作」したエンターテイメント小説。

 夢の一作といっても過言ではないだろう。思う存分楽しんでいただきたい。



 話は、ひょんな人違いから相葉時之が謎の外国人テロリストに狙われるところから始まる。

 相葉時之は逃げ込んだ映画館で、偶然小学校時代からの悪友井ノ原悠と再会する。

 ふたりは、蔵王御釜の水を執拗に追い求める銀髪の怪人に襲われながら、決死の逃亡をする。

 いったい何故そんなに御釜の水が重要なのか。追われながらも、水の謎を探っていくふたり。


 ことの始まりは、どうやら昭和20年第二次世界大戦にまでさかのぼるらしい。

 3月10日東京大空襲の最中、全く方向違いの蔵王山中に三機のB29が墜落したのは何故なのか。

 その後蔵王御釜エリアで広まったレンサ球菌による感染症『村上病』と、いったいどんな関係があるのか。

 はたまた、ふたりがこども時代憧れて止まなかったヒーロー『鳴神戦隊サンターボルト』の劇場版が、クランクイン直前、製作発表の段階でいきなり潰されたことは、ロケ地が蔵王御釜だったせいなのか。

 この御釜エリアがずっと立ち入り禁止だったことと関係があったのか。

 御釜の下に日本軍の最後の切り札生物兵器の研究所があったというのは本当だったのだろうか。


 本書は、時空を越えてこれらの断片的な話が絡み合い、最後にはひとつの大きな絵になり、秘められた謎が解き明かされる怒涛の大作である。


【読書】吉村萬壱『臣女 ( おみおんな ) 』

 どうしたことか、夫の浮気を知った時から妻の奈緒美の身体が、日に日に巨大化していく。

 高校講師の傍ら、とるに足りない小説を書いていた平凡で小心者の夫は、妻を近所の人たちに気づかれないよう必死に隠しながら、大量の食べ物を買いこみ、大量の汚物の処理に苦しみながら、懸命に介護することになる。

 奈緒美の身体は、大きくなるにつれ、激しい歪みが起こり、匂いがきつくなり、身体の中からは、泡が弾けるような不気味な音まで聞こえてくる。

 理解不能な化学変化が起こっているらしい。

 そのおぞましい成長過程で、ある日突然、奇跡的に巨大ながらも艶々して美しいバランスの身体になった奈緒美を見て夫は感動、興奮状態になったりもする。

 なんだろう。この逃げ場のない闘いの中で、ふたりは不思議な一体感を築いているようだ。

 しかし、喜びもつかの間、奈緒美はまた、歪んだり変な声をあげたり、乱暴になったりしながら、身長四メートルを越えてもひたすら成長を続ける。

 どう頑張っても、もう、汚物の処理もままならず、近所の人達に奈緒美の巨体のことがわかるのも、時間の問題である。

 そして、ふたりは決死の覚悟で、悪臭漂う我が家を出ることにするのだ。


臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)