【読書】ポーラ・フィンドレン『自然の占有ーミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化』

 ポーラ・フィンドレンの『自然の占有ーミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化』を読んだ。「科学史協会」から科学史関係の年間最優秀著作に与えられる「ファイザー賞」を1996年に受賞した本だ。

 「ファイザー賞」のホームページを見ると魅力的な題名の本がたくさんあって目が眩む。

 『自然の占有』は他にも「アメリカ・カトリック歴史協会」からイタリア史関係の年間最優秀著作に与えられる「ハワード・マッラーロ賞」を受賞している。


 『自然の占有』がどんな本か説明するために、まず山口昌男の『本の神話学』の冒頭を引用する。少し長い。

七、八年ほど前のことであるが、私はしきりに「思想史としての学問史」ということを考えていたことがある。だからといってとりたてて、学説史といわれていたものを改めてどうこうするということではなく、それは、知識の存在形態(収集・保管・創造)の一つとしての学問に、特定の時代、地域の文化がいかに反映するかということを、学問の分野と既成の枠の中に押し込めないで、通分野的に、そして意識の他のあり方ーーすなわち演劇、絵画、文学といった「他の」諸々の創造に携わる行為とのかかわり合いにおいて展望に収める方法はないであろうか、といった関心にもとづく模索のようなものであったといった方がよいであろう。


 ポーラ・フィンドレン著『自然の占有』は16・17世紀イタリアの知識の存在形態(収集・保管・創造)を解き明かした本である。

 当時の知識人たちは本で得た知識だけで満足せず、自然を占有した。つまり未知の動植物や石を蒐集し、一ヶ所に収め、ミュージアムを作った。

 そして著名なミュージアムには著名な知識人が訪れ、ネットワークのようなものが出来上がっていた。『自然の占有』によるとこのような知識の存在形態はイタリアに特有のもので、イギリスには存在しなかった。ある程度のエリート意識がこのようなネットワークを作ったらしい。イギリスのミュージアムは万人に開かれていた。


 私が『自然の占有』で一番衝撃的だった主張は、ミュージアム文化が実験科学を生んだというものだ。自然を占有することが自然を操作することに繋がっていったのだ。そのとき、聴衆に見せるというミュージアム独特の実演文化が大きく影響した。



目次

謝辞
プロローグ

第1部 ミュージアムの位置づけ

 第1章 「閉ざされた小部屋の中の驚異の世界」
 第2章 パラダイムの探求
 第3章 知識の場

第2部 自然の実験室

 第4章 科学の巡礼
 第5章 経験/実験の遂行
 第6章 医学のミュージアム

第3部 交換の経済学

 第7章 蒐集家の発明/創出
 第8章 学芸庇護者、宮廷仲介者、そして戦略

エピローグ 古いものと新しいもの

原註
略語一覧
文献一覧
解説『自然の占有』の位置づけ 伊藤博
人名/著作名/美術作品名 索引


自然の占有―ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化

自然の占有―ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化

【映画】『葛城事件』

『葛城事件』は近年起こった恐ろしい事件「付属池田小事件」をべースに、「土浦連続殺傷事件」のサバイバルナイフの要素や、「秋葉原通り魔事件」「池袋通り魔殺人事件」などの通り魔的殺人をからめた、限りなく事実に近い、フィクション映画と言えるだろう。

狂気的殺人を犯した息子の死刑判決で、家族が崩壊していくストーリーかとも思ったが、この家族は、明らかにもっとずっと前から崩壊を始めていた。

父から譲り受けた金物屋を切り盛りしながら、マイホームを購入し、息子二人の四人家族を守ろうとしてきた頑固で常にえらそうな父・清。家に招いた客達に『長男の保には、大学をでて、もっと良い職に就いて欲しい』と、豪快に語り、『母親は働きにでるな』『男は一国一城の主になってこそ一人前だ』と、昭和のお父さん丸出しで、こうあるべき論を家族に押し付け、縛りつけてきた。『この20年、めでたいときにはいつでも、お決まりのここの中華で祝ってる』と、祝いの席で振る舞いながらも、勝手に味が変わったとか、支配人を呼べとか怒鳴り付け、同席のもの達を不快にさせる。まあ、まわりの気持ちを顧みない、いわゆるしょうもない頑固親父である。

コミュニケーションがうまくとれないくせに短気で自尊心が強く、仕事も何も続かない次男・稔に対し、清は憤り、包丁を持ち出したりもする。母親・伸子は、やたらと甘く、いつも夫との仲を取り持とうとするが、うまくいかない。そしていつも、夫に怒鳴られ、殴られる。

結婚した長男は、おだやかな性格で、二人の子供がいるが、家を持つどころか、職もなくし、さらに、それを妻にも言えないまま、自殺してしまった。

切れた稔は、結局最悪の最後を選択し、なんの罪もない通りがかりの人々を殺傷してしまった。そして、伸子は正気を失ってしまう。

結局、清だけが、文句を言われながらも、マイホームに残るのだった。

『俺がいったい何をした!』
と、コピーにもあるが、清本人には全くその自覚がないのだから、たちが悪い。そして、ひとりぽっちでのエンディング。


しかし、この映画の本当に恐ろしいところは、罪の深さや、家族の崩壊ぶりではなく、そこに繰り広げられる言葉や光景が、どこか身に覚えがあるように感じることだ。この台詞、ついこの間、誰かが言ってなかっただろうか?そう考えるとよけいおぞましい。

これは、決して他人事とは言ってられない。自分達は、本当に大丈夫なんだろうか?

ダメな頑固親父を三浦友和が、いつも所在無げな伸子を南果歩が、それぞれの味を出してうまく演じている。


【読書】久賀谷亮『脳が老いない世界一シンプルな方法』

『世界のエリートがやっている 最高の休息法』の著者でイェール大で学んだ米国医師・久賀谷亮が「エイジング研究」の最前線を、ストーリー仕立てで解説してくれる。

マンガまでいれる必要があったのかは疑問だが、とても読みやすい一冊である。

どうやら、老化のバロメーターと言われる長寿遺伝子テロメアの長さは伸ばすことが可能らしい。

そして、マインドフルネスや運動、食事等の総合的セルフケアがなぜ老いにいいのかをテロメアの観点で論じている。

一番印象に残ったのは、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれる脳回路が、脳が何もしていないときでも活動するということだ。つまり、脳は常にエネルギーを消費し続けているというのだ。しかも、脳の全消費エネルギーの、60~80%がDMNの活動に当てられるというのだから、驚きだ。その上、それが自己へのとらわれによる「雑念回路」の活動に使われているというのだから、脳が疲れて老化してしまうのはあたりまえかもしれない。

こうなってくると、雑念にまみれた脳を鎮めてくれるマインドフルネスの重要性に、ぐんと真実味が増してくる。

とにかく、脳を停滞させない最高のメソッドだというのだから、脳の老化が気になる方は、この本に目を通してみる価値はあるだろう。

私も、脳の若返りを目指し、本書に紹介されている、8つのライフ・マインドフルネスをトライしてみようと考えている。


脳が老いない世界一シンプルな方法

脳が老いない世界一シンプルな方法

【映画】『プラチナデータ』

舞台は近未来の日本。

政府は全国民のDNAデータを極秘裏に収集し、警視庁科学捜査機関の天才科学者・神楽龍平(二宮和也)が中心となり、画期的DNA捜査システムを開発。その“プラチナデータ”と呼ばれる国民のデータを駆使し、検挙率100%の社会を、実現しようとしていた。

しかし、ある連続殺人事件の捜査で、DNA検索システムは「Not Found(NF)13」という結果を示した。これは、類似する遺伝子が登録されていない、というものだった。

このことで、検索システムに疑問を持った神楽が調べ始めると、同じ頃、大学病院の天才プログラマー・蓼科早樹(水原希子)とその兄が何者かに殺されてしまう。彼らは、神楽と共に遺伝子情報解析システムのプログラミングも手懸けていた。 そして死の直前に、『DNA検索システムは不完全。モーグルを完成した』と、神楽に伝えていた。しかし、早樹の衣服に付着していた毛髪のDNAから、 あろうことか神楽自身が、検索システムによって犯人とされてしまい、逃げ惑うことなる。

神楽は本当に犯人なのか?

現場叩き上げの敏腕刑事・浅間玲司(豊川悦司)が執拗に追い詰めていくが、やがて神楽が二重人格で、もうひとりの人格リョウが、早樹に恋心を抱いていたことに気づいた。神楽が犯人でないと確信した浅間は、神楽に協力し、モーグルを探し出し、真のプラチナデータの目的を暴き出していくのである。

なんと、この「モーグル」が持っている真のプラチナデータとは官僚、政治家、警察上層部たち本人とその家族の遺伝子情報で、事件を起こしても、意図的に「NOT FOUND」として解析されるようになっていたのだ。神楽と浅間は、真のプラチナデータが、国民の安全のためでなく、特権階級を守ためのシステムであったことに驚愕するばかりだった。
そして、彼らは……。


人気作家・東野圭吾の同名ベストセラーを「ハゲタカ」「るろうに剣心」の大友啓史監督が手掛けたSFミステリー。

ストーリーは興味深いが、展開にはやや無理がある。しかし、それでも、豪華な俳優陣が、花を添えている。中でも、リョウに入れ替わったときの、二宮和也の温和で不思議な表情が、とても印象的だった。


【映画】『海街diary』

月刊フラワーズ』に不定期で連載された吉田秋生のベストセラーコミックを実写化した映画。

祖母の残した鎌倉の古い一軒家で暮らす、幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)。
そんな彼女たちのもとに、15年前に姿を消した父親の訃報が届く。

葬儀が執り行われた山形で、三人は、父とほかの女性の間に生まれた異母妹すず(広瀬すず)と対面する。
心細い筈なのに、気丈に振る舞うすずに、幸は、鎌倉で自分たちと一緒に暮らさないかと誘いかける。

こうして鎌倉での四姉妹の生活が、始まることとなった。

父のことを口にするまいと緊張感していたすずだが、三人のポンポン飛び交う会話の自然さ、恋愛がらみの喧嘩や仲直り、庭の梅もぎから始める梅酒づくり等を通し、だんだんと家族らしくなっていく。

海に近い街で、繰り返される日常の出来事を淡々と描く、まさにダイアリーそのもの。

ストーリーの展開を楽しみたい向きには、おすすめできないが、大叔母の樹木希林、北海道暮らしを選び、ろくに連絡もよこさない母・大竹しのぶ、惜しまれてこの世をさる食堂の女将・風吹ジュンらの、味のある演技と、鎌倉の美しい四季が楽しめる、是枝監督らしい一作である。


海街diary

海街diary

【映画】『サクラダリセット』by 兄

特殊な能力者が住む町「サクラダ」を舞台に繰り広げられるミステリー映画。

リセットの能力を持つ少女は、3日前に時間を巻き戻すことができる。しかし、時間を巻き戻すと、自分も含めて全員、未来(戻る前)の記憶を失ってしまう。

主人公の浅井ケイ(野村周平)は、見聞きしたことを絶対に忘れない能力をもっている。

つまり、二人が揃えば、未来の記憶を覚えたまま3日前に戻れるのである。

二人は、様々な能力者を相手に、リセット能力と名推理で事件をどんどん解決していく。

最後にあっと驚く展開が用意されている。
伏線を見逃さないように注意深く観てほしい。


【読書】高橋弘希『指の骨』

 若き異才が戦地の狂気と真実を描き、第46回新潮新人賞を受賞。

 太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵が、激しい肩の痛みで目を覚ますと、そこは、島の臨時第三野戦病院だった。激戦最中の南の島の一角にもかかわらず、そこでは、時がゆっくりと過ぎていく。

 銃創の手当てが落ち着くと、回りがだんだん見えるようになる。薬も底をつき、手の施しようもないマラリヤや、風土病で、ただ、死を待つだけの患者達。一つまた一つと空いていくベッド。その度に、衛生兵によって切り取られる遺族のための指の骨。

 その現実の一方で、利き腕を失った一等兵清水は、ひたすら思い出を鉛筆で描き、戦友眞田は、現地人に日本語を教えては、食べ物を調達してくる。そして国に残してきた子供の話を聞かせてくれた。切り株から、こけし職人が作りだした将棋が流行り、ひとときブームになったりもする。

 しかし、そこはやはり野戦病院。やがては眞田も病死し、主人公はその指の骨を形見に預かることとなった。

 気づけば、攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、動ける者たちは、病院からの退避を余儀なくされた。

 戦うのではなく、ひたすら歩きさ迷うだけの日々。薬もなく、無力をなげいた24歳の若き軍医は、自死を選ぶ。食べ物も水もつき、人の肉にまで食指を伸ばそうとする狂気。

 リアルに、しかも淡々と語ることにより、戦場の狂気と哀しみ、異常な世界が、あぶり出されてくる。

 実に不気味で恐ろしい。

 しかし、決して忘れてはいけない、繰り返してはならない負の事実だからこそ、この新世紀戦争文学を、是非とも、戦争を知らない若い世代にもたくさん読んでもらいたい。


指の骨 (新潮文庫)

指の骨 (新潮文庫)