【読書】百田尚樹『影法師』

百田尚樹初の時代小説である。
時は江戸時代。舞台は茅島藩八万石(架空の藩)。
士農工商による身分差別が当たり前の世の中で、さらに、武士の中でも上士、中士、下士の格付けがあり、上士による下士の切り捨て御免がまだ罷り通るような時代の話である。
また、同じ武家の中でも、長男だけが家を継ぐことが許され、次男、三男などは、養子になれない限りは、一生家族も持てず屋敷の端の方で厄介者扱いされるような、そんな不条理なことばかりの時代でもあった。
文のそこかしこから、世の中の不平等に一家言ある作者の熱い思いが伝わってくる。

そんな理不尽な世の中で、わずか20石の下士の家に生まれた主人公・戸田勘一が、筆頭国家老にまで登り詰めることができたのは、まさに異例中の異例。
名君直々の大抜擢があってのことだが、
では、お目通りも叶わない身分の勘一が、何故お殿様のお目にとまることてきたのだろうか。

若き頃より、藩の人々の暮らしを向上させたい一心で、政(まつりごと)を考えてきた主人公が、苦難を乗り越えてその夢を実現していけたのは、竹馬の友・礒貝彦四郎の影からの後押し、まさに命を張った力添えがあったからこそだったのだ。

人知れず友を救い、後ろ指差されながらも、友の成功を喜び、ひっそりとこの世を去っていった彦四郎がとにかく格好良すぎる。

社会批判を織り混ぜながら、男気のある人物を描く、百田尚樹らしさを堪能できる一作である。
私的には、最後の袋とじがないほうがもっと良かったとは思ったが、目に浮かぶような情景描写、畳み込むような勢いのある文のうまさで、あっという間に読めてしまった。


影法師 (講談社文庫)

影法師 (講談社文庫)

【読書】木村 壽男『研究開発は成長戦略エンジン』by 兄

この本はいわゆる技術経営(management of technology)に関連した内容だが、著者のユニークな切り口が随所にみられる良書と感じた。

著者は、一貫して「スタティックR&D(Static R&D)」から「ダイナミックR&D(Dinamic R&D)」への転換を強調している。

R&Dとは、research & developmentの略であり、日本語訳すると研究開発のことである。

スタティックR&Dとは、戦略提案がなく受動的で内部志向の研究開発のこと。

一方、ダイナミックR&Dとは、研究開発が企業の成長戦略エンジンとなっている状態と定義している。
動きがあり、活性化していて、成果を生み出す研究開発のことだ。

ダイナミックR&Dとなっていくには、「R&D生産性」と「R&D活力」を同時革新しながら、マネジメントする必要がある。

「R&D生産性」とは、研究開発成果を測る指標だ。
生産性=売上額÷投資額。
本書では、直接経営貢献成果(新製品・新事業創出額等)だけではなく、間接経営貢献成果(特許、論文、学会発表等)にも目を向けているのが興味深い。

「R&D活力」とは、将来の生産性を決める組織能力の指標だ。
式で表わすと、活力=能力×活性化度合、となる。
著者が作成したR&D活力アンケート診断票を使用して見える化する。
アンケート内容は、1 研究開発戦略、2 テーマ創造力、3 事業化プロセス力、4 オープンイノベーション、5 技術力、6 R&D人材力、7 革新的組織風土、と多岐に渡っており、これらがダイナミックR&Dの必要要件でもある。

経営学者のドラッカー氏は、「測れないものは、マネジメントできない」と指摘している。

著者が提唱した「R&D生産性」と「R&D活力」の2つの指標は、どちらも数値化できるように工夫されている。

さて、冒頭でダイナミックR&Dとは、研究開発が企業の成長戦略エンジンとなっている状態と定義している。
よくあるパターンは、経営企画や事業企画が成長戦略を策定し、その後R&Dが研究開発戦略を立てるパターンだ。
著者は、未来の情報や知恵を一番持っている研究開発メンバーが成長戦略を策定していくことが重要だとしている。
つまり、成長戦略のど真ん中に研究開発戦略があるイメージだ。

ダイナミックR&Dにとって、成長戦略の構想と実現は、重要な使命である。

研究開発主導での成長戦略の創り方の流れは、以下の通り。詳細は、書籍の第2章(研究開発が成長戦略を考え提言するの章)を参照していただきたい。

①事業ビジョン仮説づくり
②未来志向の技術の棚卸し・評価
③事業展開仮説の検討
④技術を核とした新製品・新事業テーマの創出
⑤事業戦略
⑥技術戦略構想
⑦事業展開シナリオと技術開発ロードマップ
⑧新製品・仮想カタログづくり
⑨未来技術・仮想カタログづくり
⑩新製品コンセプトシート
⑪中長期・技術開発計画

次に、上記の流れで策定した成長戦略の実現に向けてR&D戦略を作成する必要がある。
詳細は書籍の第3章(テーマ創造力を高めるの章)を参照していただきたい。

また第4章(事業化プロセスを再構築するの章)では、
設定した研究開発テーマの評価方法が紹介されており、興味深かった。
未来価値を重視した新たな評価手法であるFVE法(future value evaluation)。

以上、簡単ではあるが、ダイナミックR&Dのエッセンスをまとめた。

ダイナミックR&Dは、現代において、どこの会社にも必要な概念のように思う。

最後に、目次の章部分を抜粋して、記述する。

【目次】

第1章 新たな研究開発マネジメントとは ~「生産性」と「活力」の同時追求

第2章 研究開発が成長戦略を考え提言する ~成長戦略と研究開発戦略の融合

第3章 テーマ創造力を高める ~個人の創造性を組織的に結集する

第4章 事業化プロセスを再構築する ~事業化スピードと成功確率を高める

第5章 オープンイノベーション ~外部の知の活用

第6章 技術の未来価値を高める

第7章 事業創造リーダーづくり ~次世代のR&Dを主導する人材の養成

第8章 革新的組織風土づくり ~絶え間ないイノベーションを起こす組織へ


研究開発は成長戦略エンジン―Static R&DからDynamic R&Dへ

研究開発は成長戦略エンジン―Static R&DからDynamic R&Dへ

【読書】『臨床栄養 society5.0時代の健康・栄養サポート』by 兄

なんとも目をひくタイトルである。
未来の社会問題(少子高齢化)と最新トレンド技術(ICT)の組合わせだからであろう。

近年、政府から科学技術政策の基本指針(日本がめざすべき未来社会の姿)として、ICT(information and communication technology)の効果的な活用によるSociety 5.0が提唱されている。

食・栄養・医を含めたヘルスケア領域においても、ICTの活用が今後ポイントになってくると思う。

ICTといってもアプローチは様々である。
この書籍では、AI(artificial intelligence)、IoT(internet of things)、VR(virtual reality)を活用した事例が紹介されていて、興味深かった。

以下に目次の一部を抜粋する。

・ヘルスケア分野におけるAI活用の現状と展望

・わが国の遠隔医療技術とその実際

・食とバーチャルリアリティ

インスリンポンプおよび持続血糖モニターによる糖尿病治療の現在と展望

・拡張現実感技術を用いた対人型聴診訓練シミュレータ

・IoT活用による在宅ヘルスケア・システムの現状と展望

ウェアラブルバイスによる身体活動評価

・キャビタスセンサーによる生体情報モニタリング

・ヘルスケアアプリの活用と食事管理


【読書】藤田康人・三宅隆之・村澤典知『カスタマーセントリック思考』by 兄

カスタマーセントリックとは、顧客中心主義と訳されるが、消費者の言いなりになるのとは異なる。

カスタマーセントリックなマーケティングとは、消費者・顧客をよく知り、自分たちのブランド/商品の価値に、その人たちが必要とするような接点を見つけていくこと。そして、それが伝わるコミュニケーションの在り方を統合的に考えアプローチしていくことだ。

人口は減少し、市場は成熟化し、需要が右肩下がりになる今の日本において、マーケティングの革新が必要だ。

顕在化したニーズを刈り取るだけでは不十分で、消費者自身も気付いていない潜在的なニーズ(消費者のインサイト)をつかみ、商品やコミュニケーションにより、自ら需要を創造していくことが何よりも重要である。

著者らは、インサイト(本音、核心)の把握→ストーリー構築・発信→需要創造には、メソッド(主に消費者とのコミュニケーション)があるという。

こういったアプローチが必要な【背景】と実効性のある【メソッド】について、要点をまとめる。

【背景】
従来の日本企業のマーケティング(顕在ニーズへの対処)は、下記の3つの理由で通用しなくなった。

①消費者の変化
・ユーザーの高齢化および消費の成熟化による消費欲求の最小化(欲しいものは、ほとんど手に入れた日本人)

②情報の変化
・情報量の圧倒的増加(消費者はすべての情報を受け取りきれないので、情報バリアを張る。企業発情報のシェアの物理的低下。)
ソーシャルメディアや身近な人(家族・友人)とのコミュニケーション時間の増加による、企業情報への接触意欲の減退(企業発情報はノイズとみなされ、スルーされやすい)


③競合の変化
・従来からある熾烈な棚取り競争に加え、インターネット/検索・検討プロが消費者の購買意思決定プロセスに加わったことによる、市場プレーヤーの増加→競争環境の激化


【メソッド】
◆基本的な流れ
1 消費者のインサイトを調査
2 それをもとに消費者が聞きたいストーリーを作成
(その際、独占的な商品特徴から逆算したストーリー)
3 ストーリーをタイミングよく発信し、商品に対する消費者の認識を変える
4 需要創造

◆消費者とのコミュニケーションのポイント
・消費者とのコミュニケーションは、量(リーチ)よりも質(内容)が大事。また、企業が伝えたい情報をどうやって消費者に伝えるかよりも、消費者が聞きたいのは何かを把握し、伝えるのが大事。

・消費者のインサイトを洗い出し、消費者の琴線に触れ、思わず情報バリアを解いてしまうような文脈(マーケティング・ストーリー)をつくる。

・企業が届けた情報がスルーされず、自分に必要なもの/興味のあるものだと思ってもらう工夫(自分ごと化)が必要。伝える→伝わる。
自分ごと化のポイントは、その情報にベネフィットがあるかどうか。

ベネフィットがあるとは、その情報を受け取ると何か得をする、あるいはその情報を知らなかったことにより損をするということ。

マーケティング・ストーリーで需要創造
購買行動を喚起できるマーケティング・ストーリーとは、生活欲求と購買欲求の両方を喚起できているストーリーのことだ。

生活欲求とは、商品と直接関係ない、生活上の課題解決・願望実現の欲求のこと。

購買欲求とは、生活欲求を充足する最適な手段=自社商品と認識し、自社の商品が欲しいという欲求のこと。

ストーリーを考えるときの出発点は、その商品だけが持つ独占的な商品特徴にする。
そうでないと、ストーリーをつくっても最終的に需要が他に流出してしまうからだ。

買っている人の買っている理由に、ストーリーのヒントがあることがしばしばある。
買っている人が必ずたどっている文脈を見つければ、非顧客を顧客化できる可能性が高いからだ。

以上。

他にも消費者以外のステークホルダーインサイトも探る等、まとめきれないくらい有用な情報が多い。

ビジネスマン全員に読んでいただきたい一冊。
読み終えたら、マーケティングの虜になるかもしれない。


カスタマーセントリック思考

カスタマーセントリック思考

【読書】佐々木敏『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』by 兄

佐々木敏の栄養データはこう読む!』
佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』

の二冊を読んだ。

これらは姉妹書である。
前書は、生活習慣病に焦点を当てていて、後書はより広範囲の各論を取り上げている。

どちらも我々にとって身近な、「食・栄養と健康」について、科学的根拠に基づき、分かりやすく解説している。
また、すべての内容に出展が明記されており、詳細を調べたいときは、すぐに原典をあたることができる。

本書で取り上げられているトピックスを1点紹介したい。

Q. フルーツは、糖尿病の予防と管理には控えるべきなのか?

A. 糖尿病の予防のためには、日本人はもっとフルーツを食べる方がよさそう。

理由は2つ。

理由の1つ目は、糖尿病にかかった人がフルーツをたくさん食べても、食べなくても、ヘモグロビンA1cという糖尿病の指標があまり変化しなかったこと。

理由の2つ目は、健康な人のフルーツ摂取量を調べて、その後の糖尿病の発症を観察した研究をまとめた報告(メタ・アナリシス)で、糖尿病リスクを一番低くするのは、1日あたりフルーツ摂取量が250gであったこと。日本人の平均フルーツ摂取量は、1日あたりおよそ110gなので、フルーツのとる量が足りていないことが分かる。

さらに、面白いのは、フルーツのとり方にも触れている点である。
フルーツをとるとき、ジュースではなくて、「食べる」ことに意味があるというのだ。

フルーツジュースの摂取量が糖尿病の発症に及ぼす影響について、複数の研究が報告されているが、糖尿病の予防効果はみられなかった。

フルーツジュースに糖尿病予防の効果がないのはなぜか。
予測される理由は2点。
1つは、糖尿病の予防になる栄養素や機能性成分が、ジュース加工により、減ってしまっているから。

もう1つ重要な理由としては、ジュースを飲むという行為が「速食い」に相当するから。
速食いの人は、遅食いの人に比べて、およそ2倍も糖尿病にかかりやすいとう研究報告がある。

以上、フルーツと糖尿病を題材にした内容を紹介した。

複数の根拠にまたがった、厚みのある内容と、私は感じた。

人の健康は、①食・栄養、②運動、③休養の3要素で成り立っている。

人生100年時代を生きる我々にとって、食・栄養は、健康を保つために、皆が知っておくべき重要テーマではないだろうか。


佐々木敏の栄養データはこう読む!

佐々木敏の栄養データはこう読む!

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ

【読書】高山一実『トラペジウム』

トラペジウム(trapezium)とは、オリオン星雲の中にある四つの重星。比較的若い星による星団で、非常に高温で強い紫外線を放ち、星雲全体を光らせているらしい。


「初めてアイドルを見た時思ったの。人間って光るんだって。」

それ以来、どうしてもアイドルになりたい主人公、東ゆう。
オーディションに落ちまくっても諦められず、東西南北から、素敵な女子高生を一人ずつ集めることで、話題性によりアイドルを目指そうと画策するストーリー。

アイドルになるためなら、なりふりかまわず、かなり強引な上州東高の東ちゃん。
南テネリタス女学院からは、お蝶夫人みたいに優雅な華鳥蘭子。
西テクノ工専からは、ロボコンで話題の超絶美少女大河くるみ。
北高からは、今は訳あって馬場ハウスに通いながら、そこでのボランティアに力を注ぐ美少女亀井美嘉。
四つの星のようなキラキラな女の子達が、シンジ君というカメラと星好きの高校生の協力もあり、東ちゃんを中心に集結したのだ。

この辺りは、駆け足すぎてちょっと残念な気もしたが、好印象作りのために参加したボランティア活動あたりからは、じっくり書かれていて、楽しめた。
女子高生ならではのきつめのトークも面白く、とにかくとても読みやすい。


それにしても、あんまりトントン拍子にアイドルへの道が拓けて、話がうますぎ!?
と、思っていたら、内部から大きなどんでん返し。

元々、人前に出るのが苦手なくるみちゃん、苛められて苦労した分ふつうの幸せを望む美嘉ちゃん、ボランティア活動に目覚めたお蝶夫人が目指す先は、アイドルじゃない。
だから、それぞれの決断の時が訪れるのは当然のことだったのだろう。
そこから、東ちゃんは改めてひとりでアイドルの道を目指すことになる。


トラペジウムのラテン語の意味は、不等辺四辺形。どの二つの辺も平行でない四角形のことだそうだ。

友人として繋がりながらも、それぞれ違った道を選び進んでいく後半の四人には、こちらの意味のほうがしっくりくる。

まさに四人は、ひとつひとつ違う方向を見据えて輝く四つの星なのではないだろうか。


ほしぞら写真展~工藤真司~
代官山の個展で久しぶりに出会った四人。いや五人。

展示の中に、シンジが撮ってくれた8年前の四人の写真があった。そこには、アイドルになりたくてしかたなかった東ちゃんがチープな衣装で笑っていた。


「初めて見た時から、光っていました。」
シンジが東ちゃんにやっと伝えた、ラストのこの言葉が、とても素敵で印象的だった。


トラペジウム

トラペジウム

【映画】『天空の蜂』

1995年8月8日、最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》の就航式当日。
その開発者の息子がひとり中に取り残されたまま、《ビッグB》は、遠隔操縦により突然動き出し、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止して、ホバリングを続けた。

〈天空の蜂〉と名乗るテロリストは、“全国すべての原発の破棄”を要求。従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。

機内の子供の父親であり《ビッグB》の開発設計士・湯原(江口洋介)と、原子力発電所の設計士・三島(本木雅弘)は、上空に取り残された子供の救出と、原子力発電所爆発という日本未曾有の危機を止めるべく奔走するが、政府は原発破棄にあくまでも否定的、重い腰をあげない。
燃料が尽きてヘリが墜落するまで、タイムリミットは8時間。

自衛隊員によるアクロバティックな子供救出劇。
目に見えない敵を追い詰めていく地道な捜査と、追い詰められ、アパートを爆破して逃げる犯人(綾野剛)との攻防戦。
最悪の事態を回避するための究極の選択。
そして、だんだんと炙り出されてくるこのテロの裏に秘められた原発への憤り。

一言でいうなら、原発テロの恐ろしさを描いたスリリングな社会派アクション映画である。

設定そのものがあり得ないとか、アクションに無理があるとか、批判的な意見もあるかもしれない。

しかし、この映画が、震災と福島原発事故の後に作られたことの意味は実に大きいと思う。

原子力の持つ偉大な力とその裏腹にある脅威、原発推進派と反原発派の争い、利権がらみの政府の対応、そして、それらに見てみぬふりを決め込み、この問題に触れないようにしてきた多くの日本国民たちに、一石を投じようとしているのは確かである。

東野圭吾が「今まで書いた作品のなかで一番思い入れが強いのはどれかと訊かれれば、これだと答えるだろう」と語るほど思いがこもった原作は、1990年代に書かれたものだ。

改めて、時代の先見性、社会性に深く感心すると共に、この映画を観たことで、ひとりひとりが問題意識を持つきっかけにできたらと、思うばかりである。


天空の蜂 [Blu-ray]

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