北川智子『ハーバード白熱日本史教室』

「若き日本人女性の斬新な講義にハーバードが熱狂した!」との宣伝文句で話題の新書『ハーバード白熱日本史教室』(新潮新書)が、歴史関係書籍では異例のベストセラーとなっているらしい。

 著者の北川智子が、ハーバード大学で米国人学生らを相手に日本史を教え、全く人気のなかった日本史を、大人気講座に変貌させた。
これは、歴史関係書というよりは、いわばサクセスストーリーである。

そもそもハーバードで日本史は全く人気がなくて、登録学生数が一桁というのが当たり前だったそうだ。

しかも、1980年生まれという若さで、アジア人種で、母国語が英語でない上、女性だということで、彼女はハーバードではハンディキャップだらけの教師である。

そんな彼女の授業が話題を呼んだのは、「Lady Samurai」なる歴史概念が注目を集めたからだ。
「サムライが中心で女性がその影という状況こそが見直されるべき」と考え、「Lady Samurai=戦わずに、かつ陰で大いに活躍する女性たち」にスポットを当てたのだ。

また「Kyoto」という授業では、聴くだけの座学から離れ、学生達による地図づくりや映画づくり、タイムトラベル等、アクティブで斬新な授業に取り組んだ、

それが功を奏し、初年度16人だった講義は翌年には104人に、2年目にはさらに200人を超え、 彼女は「ティーチング・アワード」や、「ベスト・ドレッサー賞」を受賞し、さらには 「思い出に残る教授」にまで選出 されたのだから、これは凄いとしか言いようがない。

正直、読み進んでいくうちに、自慢話が鼻についてきたり、独特な歴史感や偏りがちな日本のイメージに疑問を抱くところもある。

しかし、こんな自由な授業があってもいいんじゃないだろうか。
日本の大学でも、あったら楽しいんじゃないだろうか。

それに、若き日本人女性があのハーバードで、欧米人を押さえて大人気だなんて、ちょっと嬉しい。

歴史云々と難しく考えるより、一日本人として、応援しながら読む事をお勧めしたい。


ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

清涼院流水『コズミック 世紀末探偵神話』

 1993年大晦日から元旦を迎えようとする瞬間。平安神宮の雑踏の中で起きた驚愕の首切り殺人からストーリーは始まる。
 ざわめきと悲鳴。
 転げ落ちる首。首なしの屍体の背には被害者本人の血で残された『密室壱』の文字。

 さらに1994年元旦には、走っているタクシーで、運転手が同じように首を切られて死んだ。
 これを皮切りに続いていく密室殺人。

 そして「今年1200個の密室で1200人が殺される」と密室卿なる正体不明の男から、前代未聞の犯罪予告状が送り付けられたのだ。
 天才探偵・九十九十九ら、名探偵集団JDCがそれに挑むという。
 謂わば長編娯楽ミステリーである。

 どう展開していくのだろうか?との疑問もあり、興味を持って読み初めたが、とにかく長い。

 どう考えても、コズミックではない気がするが、着想と発想は面白い。

 悠久の歴史的出来事や、思想をからめて展開していくアイディアは面白いが、構成のためなのか、文体のためなのか、生かしきれていない。

 え?結局そういう顛末なの?

 とにかく、この長い小説の最後まで、読者(私)を引っ張っていってくれるほどの魅力は見つけられなかった。

 今は、読みきった自分を誉めてあげたい。

 それにしても、メフィスト賞とは、いったいどんな対象に与えられるのだろうか!?
 疑問が残る一冊だった。
 出来れば、あなたがたにも、読んでもらって、ご意見を伺いたいところである。


アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』by 兄

ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に価値を届けるかを論理的に記述したものだ。

本書で紹介されているビジネスモデルキャンバスというフレームワークは、アメリカのシリコンバレーでも使用されているポピュラーなビジネスモデルの視覚化ツールである。

ビジネスモデルキャンバスは9つの構築ブロックに分かれており、それらがツールの土台となっている。
①顧客セグメント
②価値提案
③チャネル
④顧客との関係
⑤収益の流れ
⑥リソース
⑦主要活動
⑧パートナー
⑨コスト構造

ビジネスモデルキャンバスのメリットは、視覚的に分かりやすく、全体が俯瞰できる点である。
ビジネスモデルを人に説明するには、もってこいのツールだ。
ビジネスモデルキャンバスを社内の共通言語として使用している企業もある。

ビジネスモデルキャンバスの使用上の注意を以下に4点挙げる。

①新たなビジネスモデルを考える場合、ビジネスモデルキャンバスだけではなく、いろいろなフレーム・ツールを組み合わせて行う。
②ビジネスモデルキャンバスの全てのブロックを必ずしも埋める必要はない。
③ビジネスモデルは複数個つくり、そこから良いものを選ぶ。
④いろいろな情報を分析し、様々な意見を聞き、何度も試行錯誤しながらキャンバスを作り直していくことで、ビジネスモデルをブラッシュアップしていく。(1回作ったら終わりではない。)

ビジネスモデルを見える化したい人は必見の書籍だ!


ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

スコット・ギャロウェイ『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』by 兄

GAFA(ガーファ)に関する本を読んだ。
ガーファとは、グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン(A)の頭文字をとったテクノロジー四強企業のことである。


これらの企業は、我々にたくさんの利便性、快適性、共感性をもたらすことで、成長してきた。


この本では、どうやってガーファがここまで成長を遂げたのかについて、光(表向きの顔)と影(裏向きの顔)の両面から解説している。
特に影の部分が興味深かった。


本書の私的要点を以下にまとめる。


フェイスブック
フェイスブックもしくはインスタグラムに登録している人は必見の情報を紹介する。(インスタグラムはフェイスブックの傘下)
皆うすうす気付いていると思うが、我々の個人情報はフェイスブックに吸いとられている。
「私は見る専だから大丈夫」と思うかもしれないが、そんなことはない。
この本に以下の記述があった。
あなたが「いいね」をつけたものが150件わかれば、そのモデルはあなたのことを配偶者より理解できる。これが300件になると、あなた自身よりあなたのことを理解できる。
もしあなたがスマホを所有し、ソーシャルネットワークに参加しているなら、あなたはプライバシーの侵害を覚悟しているということだ。


②アップル
アップルはテクノロジー業界の中で、圧倒的に高い利益率を誇る。要するに「製品の価格は高く、生産コストは低く」を実現した。確かにライバル会社のものより製品は優れているが、アップルがつけている価格ほど段違いに優れているわけではない。
2015年第1四半期に、全世界で出荷されたiPhoneのシェアは18.3%にすぎないのに、アップルは業界の利益の92%を占めた。
なぜ、こんなにも高い利益率を実現できたのか。
この鍵は、アップルストア(メーカー直営店)にあった。
ネット販売が当たり前の時代に、リアル店舗販売を大切にしたのは、非常にユニークな戦略だ。
ニューヨークの5番街シャンゼリゼを歩くと、ヴィトンがあり、カルティエがあり、エルメスがあり、そしてアップルがある。
アップルはアップルストアにより、テクノロジー企業から高級ブランドに転身し、ブランドイメージと利益率を上げたのだ。


③アマゾン
アマゾンが訴えかけるのは、より多くのものをできるだけ楽に集めようとする我々の狩猟採集本能だ。
アマゾンは資本を食う店舗を持たなかったため、倉庫の自動化に投資することができた。規模は力であり、アマゾンは実際の小売店にはできない低価格を提示することができた。
小売業はアメリカ経済としては成長していない。 アマゾンが成長している分、アマゾン以外の全ての小売企業は衰退している。アマゾンの独り勝ち状態だ。
アマゾンが100万ドルの収益をあげるのに必要な従業員数は、一般的な小売企業と比較すると、はるかに少ない。アマゾンの成長により、アメリカの小売業界で7万6000人分の仕事が破壊されることになる。
つまり、便利なアマゾンを使えば使うほど、我々の雇用は減っていくのだ。


④グーグル
グーグルは全ての疑問に答えてくれる。グーグルほど信頼されている企業はない。
アップルは世界一革新的な企業と考えられている。アマゾンは最も評判の良い企業。フェイスブックは一番働きやすい企業だ。しかし私たちがグーグルに置く信頼には並ぶものがない。
グーグルが現代の神と呼ばれる理由の1つは、私たちの心の奥底にある秘密を知っている点だ。
冷静に考えてほしい。母親、親友、医師にさえ話さない秘密をグーグルには告白しているはずだ。
グーグルに聞く頻度で、秘密の質問をされたら、どれほど理解のある友人であろうとおそらく引いてしまうだろう。
最近のグーグル検索履歴を見れば、誰にも知られたくないことをグーグルには打ち明けていることが確認できる。
グーグルは世界中の誰よりもあなたの深い部分を知っている存在なのだ。恐ろしい事実だと思わないか?


以上。


ほとんどの企業は、ガーファが創ったゲームのルールの上で、活動している。
ガーファをよく理解することは、現代ビジネスマンの教養とも言える。
ビジネスマンや就活生に広くオススメできる本だと感じた。


the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

本谷有希子『江利子と絶対』

本谷有希子の短編集。
三編のごく短いストーリーたちの中に、濃い本谷ワールドが凝縮されているらしい。確かに軽快で読みやすい文章に、伝えたいことがぎっしりストレートに詰め込まれている感じがする。きっとこのひとの描く舞台は面白いのだろうと連想できたが、小説としては、うーんどうなんだろう。違う気がする。

一作目の江利子はほぼ引きこもりの高校生。ボンレスハムみたいにぐるぐる巻きにされていた犬を救いだし、絶対と名付け、どんなときも絶対自分の味方となることを求める。譲れない正義感をうちに秘めていて時々それが炸裂する。
かなり激しい展開だが、まだ理解可能だった。

二作目は、もはやグロテスクとしか言いようがない。
おじさんいじめの容赦なさも、ひどすぎるが、猫を電子レンジでチンした時点で、私としては完全にアウトだった。

三作目は、簡単に人を殺してしまうお兄さんの話。
最後にほんの少しだけ光が見えたが、あまりに絶望的で暗い。

読み終わったときに、ホッとしたり、あたたかい気持ちになれるような話を求めてしまう私には、あまりにもグロテスク過ぎて辛いワールドであった。


梓澤要『荒仏師 運慶』

平安から鎌倉への大きな時代のうねりの中で、稀代の天才と讃えられた仏師・運慶が、如何に生まれ、如何に生きたか。
ひたすらに彫りつづけた、その狂おしいまでの生きざまを描いた歴史小説



とにかく、冒頭の一ページに殺られてしまう。

 わたしは美しいものが好きだ。
 たとえば、女のなめらかな肌、若い男のこりこりと硬そうな筋肉、春日野を駆ける鹿たちのしなやかな動き、絹布の襞の重なり、複雑で繊細な模様、仏の像の端正なお顔、冠の透かし彫り、夜光貝の象篏細工、水面にきらめき踊る光の渦、風にしなる木々の影。
 美しいものを見ると、この手で触れると、恍惚として、自分の醜さを忘れられる。
 母は美しい女だった。三歳年下の弟は生まれながらに母譲りの細面で色白のきれいな子だったから、母は弟ばかり可愛がり、わたしを毛嫌いした。
 「猿みたいに醜い顔」
 わが子なのに、面と向かって嘲り嗤った。おまけにわたしは口が重くて愛嬌がなく、ますます疎ましいがられた。


普通この状態だったら、母や弟を恨み、自分の醜さや愛嬌のなさを嘆くものだが、
運慶は違う。

なんと言っても、その醜い子は天才だったのだから。

五才ぐらいから蚤を操り、仏の手や足先や台座の飾り彫りをこなしていたのだから。

幼い頃から才能を認められ、工房に入り浸ることを許され、特別な存在でいられたのだから。


もうこれだけで、運慶という人がどうして美しいものを愛し、その美しさを表現することに身を削り命をかけられたのかが、自ずと知れてしまうと言うものだ。


しかし、勿論これだけではない。

京都の仏師だけが都で仕事ができた厳しい時代に、奈良仏師一門を率いる運慶親子がどんなウルトラシー級の技と頑張りで割り込んでいったのか。
その道のりで出会った鎌倉の武将達と北条政子
はたまたもうひとりの天才快慶との確執や、あの有名すぎる東大寺南大門の仁王象のできるまでのいきさつ。
そして、度々運慶を死へ引きずり込もうとする病等々。

最期を迎えるとき、
「たとえ無名の仏師で終わったとしても、人の心に刻み込まれるお像を一体でも造ることが出来れば満足だった。」
と、運慶が思いいたるまでの、長く重い葛藤の道のりが、生き生きと描きだされている。

「仏の像を造ることは人の心に刻むことだ」と言う父の言葉を、神妙に受け止める純粋さを持ち合わせながらも、実に男臭くて、人間臭い運慶の一生を、へぇー!ほー!と、ゆっくり味わってみては如何だろうか。

荒仏師 運慶 (新潮文庫)

荒仏師 運慶 (新潮文庫)

百田尚樹『ボックス!』

大阪 環状線の車内。
恵美須高校の女性教師・高津耀子が、傍若無人に振る舞う男5人、女1人の若者達の行為を見逃せず、キッと睨みつけたことから、ストーリーは始まる。
逆に彼らに絡まれて、万事休すかと思われた瞬間、そこに二人の少年が現れ、助けてくれたのだ。それはあたかも風のようであった。

後日、その少年たちが、同じ恵美須高校の生徒であることが分かった。一人は、特進クラスの生徒の木樽優紀。学費免除を受けるほど優秀な生徒。

もう一人が、ボクシング部に所属する鏑矢義平。彼は天才的センスを持ったボクサーだった。5人の若い男たちをあっという間に倒したのも、この鏑矢義平だった。

気が弱くて優等生の優紀と、ケンカ早くておちゃらけ者の鏑矢は幼馴染みで、親友であったが、優紀に屈辱的な事件が起きてしまうまでは、それぞれ別の世界に所属して暮らしていた。

しかし、優紀は、ある日同じクラスの女生徒と街を歩いているときに、中学生時代にいじめられていた不良たちに出くわしてしまい、彼らに叩きのめされてしまったのだ。
この事件がきっかけとなり、自分も強くなりたいと考えた優紀は、鏑矢が所属するボクシング部に入部することを決意する。

ボクシング部に入った優紀は、鏑矢のボクサーとしての本当の凄さを知ることになる。
圧倒的な強さの前に、自分の無力さひ弱さを嫌というほど見せつけられたが、ひたすらコツコツと地味なトレーニングを重ねていくのだった。


強すぎるがゆえに、あまり真剣に練習に打ち込むことがなく、それが原因でスタミナ不足だった鏑矢。
高校5冠を達成した無敗の最強のボクサー稲村に負けたショックでボクシング部をやめてしまったが、自らに 過酷なまでの練習を課し、着実に力をつけていく優紀の姿を目の当たりにし、再びリンクに戻ってくるのだった。

果たして、高校ボクシング界最強のモンスター・稲村を倒すことはできるのだろうか。それは優紀なのか、それとも鏑矢なのか。

このストーリーは、 鏑矢と優紀のふたりを軸に、弱小チームが成長していく姿を描いた所謂スポ根青春物語である。

縁あってボクシング部の顧問となった耀子と、優紀の2つの目線から語られる。

なんと作者の百田尚樹は、大学時代、アマチュアボクサーだったそうで、どうりでボクシングの描写が詳しい訳だ。
かなり専門的な知識を織り混ぜて、緻密に書き込んでいるが、ボクシング初心者の耀子の目を通すことによって、結果的にとても分かりやすく説明してもらえる。

そのため、ボクシングが苦手とか、わからないとか思っている私のような読者でも、充分に楽しめる。

Box!
さあ、貴方もストーリーの中で一緒にボクシングを始めませんか!?


ボックス!(上) (講談社文庫)

ボックス!(上) (講談社文庫)

ボックス!(下) (講談社文庫)

ボックス!(下) (講談社文庫)